第48話 真の勇者
確かに銃声は聞こえた。
「…………………………ハイ?」
気の抜けたブレイズの声がする。
彼は確かに、リリに向けて銃弾を放った。
だがしかし、既の所でそれは阻まれる。
彼の剣によって、銃弾は弾かれたのだ。
「……君が、ワルド一家のボスだね」
金色に輝く髪をした少年。
それは希望の具現化であり、絶望を討ち斃す救世主。
心のどこかで思っている、誰か助けて、という願望のその誰か。
淡い光を放つ剣を携えて、彼はそこに立っていた。
誰も彼もが呆気に取られているなか、彼──カウルはリリに振り返る。
「助けに来たよ、リリ!」
「カウ、ル…………」
リリはあり得ないモノを見る目でカウルを見上げた。涙を溢しながら、彼に惹かれている。
死の淵から助けてくれた、貴き人。
諦めてしまった心を正す、強い人。
それには私も同じ事で、もう駄目だと確信していた所にカウルは現れたのだ。
さながら、窮地の姫を救う勇者のように。
「母さんも大丈夫?」
「あ、ああ。大丈夫、だ」
「よかった。みんなで協力してアイツを倒そう!」
カウルが参戦したことによる一時の安堵に身を委ねていたいが、未だブレイズは健在。
一旦危機から脱したが、余裕がある訳でもない。
油断は禁物だ。油断したが最後、あっという間に死神に攫われるだろう。
「……ナニコレ。ダズもアスタロッテも何やってるのぉ。こんなガキんちょ見逃してぇ」
「ダズは僕が倒したよ。もう一人も、必ずドグが倒しているさ」
「はー、甘くみられたもんだねぇ」
ブレイズは口腔内にある極小銃を吐き出した。
カラカラと音を立てて、地面に転がっていく。
すると、ブレイズのおかしな喋り方が突如として改善された。
「……あー、うん。やっと喋りやすくなった。全く、この体は不便な所もあるのが痛いネ」
コキコキと首を鳴らすブレイズ。
どうやら、常に口の中に小さな銃を仕込んでいたが故に変な喋り方だったのだ。
未だ、気味の悪い笑みは崩さず余裕がある様子。
そして、カウルが手にしていた剣が蒸発するように消失していく。
「おや。ワタシの弾丸を防いだご自慢の剣がなくなっちゃったけどいいの?」
「僕の剣は誰がを救う事でしか振れないからね。君を倒すことには使わないよ」
「……ふーん。ま、なんでもいいケド」
ブレイズはカウルに銃を向ける。
よく見ると、カウルの左肩にも負傷している様子が見受けられる。医者ではなくともかなり痛い傷だと見て取れる。
だがそれでも、カウルは痛みを表情に出さない。
姿は変わらないが、どこか凛々しくなって瞳のキレが違うように見える。
彼の中で、何かが明確に変わったもしくは、決まったのだろう。
「あまり、舐めないでもらえる?得物も何も持たずにワタシの前に立たないで」
「舐めてなんかないさ。君を倒す……いや、殺す為にここに立っているんだ」
「────あっそ」
何の躊躇いもなく、ブレイズは引き金を引いた。
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