第47話 勇者
流れる血も垂れる汗も等しく扱い。
刻まれた傷の数を数えるのも忘れ。
女の子らしさとか、子供の無邪気さなど、ママを助ける為には一ミリも必要なかった。
アタシはアタシの人生すら可愛がらず、ママを救う為に生きてきた。
銃を手にして、時には人を殺めて、ここまでやってきた。
もちろん、無辜の人々を手にかけた訳じゃない。
アタシが葬った命は全て、悪い奴らだ。
悪人と言えど同じ人間で等しき命。だとしても、アタシの行手を阻むなら喜んで殺して見せよう。
……いや、殺して見せてきた。
パパには驚かれるどころか、気持ち悪がられる程までに銃の扱いが上手くなっていった。
アタシには才能なんて無い。ただただ、一生懸命に生きてきただけ。
死なないように、生きてきた。
殺されないように、殺してきた。
アタシは生まれてから六年しか生きていない。
アタシだって、パパに絵本っていう本を読んでもらって、ママのご飯を食べたかった!どんな世界であろうと、家族で一緒に居たかった!
本当は
アタシだって怖いんだ。
死ぬ事も、人を殺す事も、ママを失う事も、パパが傷つく事も、ずっと怖かった!!
けれど、パパの背中を見て弱音なんて吐いちゃいけないと思った。
アタシは二人の子供でありながら、ママを助ける勇者だった。
勇者でいなければならなかった。じゃなきゃ、ママを助けられないから。
だからアタシは、アタシを押し殺したんだ。
アタシだって一度くらい勇者じゃなくて、絵本に出てくるらしい勇者に助けられるお姫様とやらになりたかったよ──
「────アッヒャヒャヒャヒャ!!!」
右の脇腹がとても痛い。
ああ、初めて知った。これが銃で撃たれる痛みなんだ。アタシに撃たれた人全て、この痛みを味わって死んでいったんだ。
それはどんなに、寂しくて悲しいんだろう。
命を殺す者として、思ってはいけない事すらも思ってしまう。
このキノコ野郎は、口の中に極小の銃を仕込んでいた。
心底愉快そうな顔でケタケタと笑っている。
アタシが引き金を引く前に、その小さな銃で撃たれてしまった。
もうこれじゃ力が入らない。
当然、引き金を引くことも出来ない。
指を曲げるのってこんなに大変なんだ。
「ぐ、ぅ…………!!!」
痛い。すごく痛い。涙が出るくらい痛い。
ズキズキと痛んで、息すらまともに出来ない。
むしろ呼吸なんてしたくない。肺を動かしたらすごく痛いから。
「で、いつまでワタシの上に乗っかってるワケェ?」
ブレイズはブレイズの身体に倒れ込むアタシを乱暴にどかした。
「あ、あああ、っ…………!!!!」
容易く投げられたアタシは床と衝突した。
雷に打たれたと錯覚するくらいの激痛が五感を奪っていく。
あと少しで痛覚の向こう側に行ってしまいそうだ。視界がチカチカする。もうまともに目が機能しないみたい。
「──ハイ。一名様、ご退場でぇす!」
「リリ……!!」
遅れて、ダレルのオバチャンの声が聞こえる。
アタシの聴覚が遅延しているのか、オバチャンが一瞬言葉を失っていたのかは分からない。
けど、ママはアタシが見たこと無いくらいのひどい顔をしているのは分かった。
立ち上がったブレイズは、その手にした銃を容赦なくアタシに向ける。
「クソッ…………!!」
オバチャンが視界の端で左脇腹を抱えながら、何やら悶えている。
大方、魔法ってやつを使おうにも身体がソレを許してくれないのだろう。
武力行使に走れる身体でも無し、ダレルのオバチャンに打てる手は無い。
「リリ、リリ!!リリ────!!!!」
久しぶりに見たママの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
アタシは、ママのそんな顔を見たかった訳じゃなかったのに。
「マ、マ…………」
一粒の涙がアタシの頬を伝う。
それは、今までの辛苦とあと少しで届かない絶望がが込められた重い涙。
結局、アタシにはママを救う事が出来なかった。
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