第46話 とある国

 誰もが、撃ち抜かれるリリを想像しただろう。

 私もサラもブレイズも確信した筈だ。


 放たれた銃弾はリリの皮膚を破って肉を貫く。

 撃たれた箇所は当然使いモノにならなくなり、激痛が全身を痺れさせ戦闘不能にさせる。


 たった一発が命取りとなる幼き少女。

 なぜそんな少女が今まで生き抜いてこれたのか。


『気持ちが悪い程、銃の扱いがうまい』


 そう言ったのはリリの父親であるドグだった。

 私は文字通りの意味で受け取ってしまったが、そこには深い意味が存在していた。


「──キノコ野郎。射線が分かりやすすぎるぜ」


 私は才能に年齢など関係ない事を知った。

 銃の扱いのみならず、銃に関する知識と経験を殆どを彼女は網羅している。


 リリは銃弾が放たれてから避けたのではない。

 射線から身体を事前に逸らしていた。

 ブレイズの銃の構えから、弾道を予め予測していたのだ。


 その上─────


「……おやぁ。押し倒されちゃったぁ」

「動くと撃つぜ」


 リリは銃弾を避けたのち、瞬時にブレイブの懐に入って身を投げるがの如くブレイズに体当たりをした。

 結果、ブレイズが仰向けに床に倒れリリが馬乗りになって額に小銃を向けている。


 サラも私も、リリの飛躍した行動に呆気に取られて手出しが出来ない。

 何をしても余計なお世話になってしまいそうで、もどかしさが胸に残る。


「一つ聞くぜ。アンタらの目的を教えろ。何しにここにきた」

「アハハ。簡単だよぉ。ただ金を稼いでだけぇ」

「じゃあどこに帰るんだ。さっき国とか言ってたけど、そこか?」

「もちろぉん。あまりにも無知で可哀想だから、トクベツに教えてあげるよぉ」


 押し倒され馬乗りにされてもなお、不気味な笑みを崩さないピエロ。

 リリがその引き金を引くだけで全てがお釈迦になるというのに、余裕に満ち溢れている。


 私の中には這い寄る蟲のように拭いきれない嫌な予感が存在していた。かといって何かの確信を得る事は出来ず、ただ見守るだけ。


 薄ら笑いを続けるブレイズはこの世界に唯一存在するという国の名を口にした。


「唯一国家、ワン。かつて、オークニーという国が生まれ変わった、現在唯一存在する国なのぉ」

「……唯一国家?」


 リリはピンと来ず、頭を傾げている。

 だが私には分かった。

 散りばめられていた、繋がりのない疑問がパズルのように合わさっていく。

 答えは出てはいないが、ヒントを得られた。


「戦争の元凶であるオーデンバッハ王が死に、世界は収拾がつかなくなった。だが、また新しく国が生まれたのか」

「そう。オーデンバッハ王のご子息があの国を治めているのぉ。亡き父親の方針を継ぎながらも、新鮮な要素を取り入れて運営しているみたい」

「アンタはそこのワンって国から来たのか」

「そういってるでしょぉ。気は済んだぁ?」


 ニタニタと口角を下げない奴の顔が、記憶にへばりついて離れない。

 リリはもう限界が来てしまったらしい。


 リリは引き金に指を当てがる。

 その引き金を引くために彼女は戦ってきた。

 恩讐の敵の額に向ける銃口。指を少し引くだけで奴は確実に死ぬ。


 一体どんな想いでここにいるのか。

 殺意だけではない感情が、彼女自身にも理解できない想いが、我慢できない衝動が、彼女の胸を去来する。


 そうして、万感の思いでリリは言った。


「──ああ。もう終わりだ。クソッタレ」










 そうして、一発の銃声が轟いたのだった。

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