第10話 それは何処に

 また、白く閉ざされた場所に気づけばいた。


 そこは寒い訳でも暑い訳でもない。かと言って居心地が良い訳でも無い。

 身体は思うように動かないし、あたり一面暗い白色で方角なんて分からない。


 しかし前回同様に、あの淡い光だけは見えていた。


 ただの光ではなく、何かが光っている。

 だが白い霧によって光が屈折させられ、その形の輪郭は朧げだ。


 それでもソレを目指して前に進む。

 それでもソコに向かって前を見る。


 前に進んでいる気はしなくとも、ソレを求めなくちゃいけない。

 何か分からずとも、ソレを探さねばならない。


 未だ不明な光の正体。未だ不明な夢の正体。


 なぜ僕はソレを求めなくちゃいけないんだろう────




「む。起きたか」


 陽光に起こされ、仕方なく目を開けるとママが声をかけてきた。

 昨日はあの後家に帰り、夕食を摂って就寝したのだ。


「おはよう、ママ」

「ああ、おはよう。一応確認するが、怪我の具合はどうだ?痛むところはないか?」

「もう大丈夫だよ」


 僕がそう言うと、そうか、とそっけない返答。

 しかし、ママが僕を適当に扱っている訳ではないのは分かる。

 だって傷だらけの僕を助けてくれたし、林檎も取ってきて食べさせてくれた。


「ママ、大好き!」


 僕は嬉しさの衝動で、ベッドから飛び起きてママ目掛けてダイブする。


「なに!?」


 ママにとって予想外の行動だったのか、目を見開いて、やっぱり僕を迎え入れてくれた。

 ママの腕は細いのに、力強さを感じる。ママの言葉には優しさを感じる。


「えへへ」

「……はあ。朝から驚かせるな」

「はあーい」


 もうじき朝食の時間らしい。と、その前にママは一つだけ昨日のことについて聞いてきた。


「カウル。お前のその魔法は誰から教わった?」

「え?誰からも教わってないよ?生まれた時から出来るんだ」

「ふむ。まあ、何となく予想してはいたが。なるほどな」


 神妙な面持ちで一人で納得するママ。

 何がなるほどなのか分からないけど、まあいいや。


「どちらにせよ、魔法は人の目がつく所では使うなよ。魔法は人には過ぎた代物だからな」

「うん、分かった!」


 話は切り上げられ、朝食の時間に移る。

 昨日はママが林檎をとって来てくれたけど、今日は特別なモノを見せてやるとママが言ってきた。


「こちらから要求した覚えはないが、昨日お前の魔法を見せて貰ったしな。今日は私が使える魔法の一つを紹介してやろう」

「ママも魔法が使えるの!?」

「当たり前だろう。なにせ私は──まあ、それはいい。とりあえずそこで大人しくしておけ」


 ママは僕を引き剥がしてベッドに座るように指示してくる。

 その指示に大人しく従い、ママが言う特別なモノ、魔法の披露を待ち構える。


「カウル。朝食は何が食べたい?」

「うーんとね。パン!あと林檎!」

「……お前本当に林檎が好きだな。まあいい。パンと林檎だな」


 ママは徐に右腕を前に構え、その細長く綺麗な指でパチンと快音を鳴り響かせた。


「…………わぁ!」


 すると、突如テーブルの上に僕が望んだパンと林檎とオニオンスープが出現した。


「すごい!ママすごい!──ってあれ、僕オニオンスープは言ってないよ」

「それは私のだ。飲みたくなってしまってな」

「そうなんだ。じゃあ食べよ!」


 二人でテーブルに向かう。僕はベッドに腰掛け、ママは椅子に座っている。

 ママと初めて会ったのは昨日だけど、ずっと前からこうしていたように感じる。


「「いただきます」」


 自然と声が合わさり、こうして平穏な朝ごはんが始まった。

 緩やかにその時は過ぎていく。

 誰に急かされることもなく、自分達の時間を実に噛み締めて。

 一食を共にする度に、なんとなくママとの繋がりが強くなっていってる気がした。


 そして、二人とも腹が満たされ食休みをしている時、僕は思いついた事をママに言ってみた。


「僕、街に行ってみたい!」


 僕がそう言うと、僕の予想とは反した顔を見せるママ。




「なら、心の準備をしておけ」

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