第11話 さあ、街へ

 改めて言うが、この世界は終わっている。


 機能することのない法律。

 崩壊し朽ちていった文明。

 霧散しどこにも無い社会。


 この星を運営、発展することができなくなった人類は終わりを迎えるのみ。

 種全体の自滅だ。


 過去に私が目にしたのは、そこらに捨てられた命の抜け殻。使われた年数より、壊され使われなくなった年数の方が上回る建造物。未だ存命する人々の嘆き。生きるよりも死ぬ方が幸せという、倒錯した世界。


 そんな星のどこに街と呼べるものがあるのだろうか。


『僕、街に行ってみたい!』


 穢れを知らぬ子の瞳。

 無情に気付けぬ純粋。

 綺麗であるが故に、儚い。


 心が純白で満ちた少年が、この惨劇を目にした時どうなってしまうのか。

 心が折れ、泣いてしまうのか。

 心が負け、慄いてしまうのか。


 年端も行かぬ子にはとても見せられない現実だが、現実は現実。

 元より私と血が繋がっている訳でもなし、私がそこまで気を遣う義理はない。


「なら、心の準備をしておけ」


 優しさを見せるならば、引き留めるだろう。

 魔女はそこまで優しくはないのだ。


「心の準備?」

「ああそうだ。お前はこれから、世界とは無慈悲で残酷で理不尽である事を知る。その準備をしておけと言ったのだ」

「こわいところ?」

「ふむ。まあ受け取りようによってはそう言えるかもな。」


 分かりやすく怯える少年。

 ベッドのシーツをギュッと握っているのが見える。

 脅しすぎたかと思ったが、誇張した訳でも無い。ここは真っ直ぐに受け止めてもらうしかないのだ。


「身の安全に関しては安心しろ。せっかく保護した奴をやすやすと怪我させる訳にはいかないからな。私がついている。」


 その言葉を聞いた途端、少年の握りしめていた手から力が抜かれた。


「えへへ。なら安心だね!」


 愛らしい笑顔。

 それを見て、自身のうちから湧き出てくる庇護欲から目を逸らすには、あまりにも難しかった。


「……じゃあ、今すぐにでも出るぞ。別に急いでいる訳じゃないが、今日行かない理由も無いからな」

「分かった!」


 ぴょんとベッドから飛び降りて、外へと向かう少年。

 大体のモノは魔法で賄える故、特段用意する物は無い。

 私もその後を追う。


「戸締りはせねばな」


 外へ出て、扉の施錠をする。

 魔法による細工でも良かったが、いつ帰れるか分からない以上、物理に頼るのが良い。


「ママ!早くー!こっちこっちー!」

「はあ、そう急ぐな」


 太陽は眩しく。風は心地良く。森は豊かに。

 まるで、世界が私達の門出を祝っているようで。

 まるで、自然が私達の出立を待っていたようで。



 私も予想だにしていなかったが、こうして魔女と少年の奇妙な旅は始まるのだった。


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