第4話 誰だ
綺麗だ。
最初ほどの感動はもう無いが、いつ見ても心が落ち着ける風景。
同じ星の上で戦火に見舞われる人々がいるとは思えないくらいに、平穏だ。
平和な庭園。平凡な楽園。世界でここだけが緑豊かだった。
腹を満たした後の外出。別にどこかに出掛けるでもなく、ただ外にいる。
私にとってこれだけでも外出と言える。あの子がいた頃はもっと色々遊んだりしていたが。
丘陵に建てられた私の家。丸く形取られた原っぱの中心に存在しており、この庭の主人である事は一目見てわかるだろう。まあ、来客などいない筈なのだが。
小さな木造の家の側には一本だけ、木が生えている。なんの変哲も無い木なのだが、私にとってソレは特別な意味を持つモノ。
「ふぅ──」
溜息、と言うほど気分は落ち込んでいないが、大きく息を吐き優しく手でその木に触れる。
この木も随分と大きくなったものだ。
見上げれば、家の半分を影で隠してしまうくらいに傘が広がっていた。
そうして穏やかな時間に身を任せていた時、何者かの気配を感じ取った。
私以外に知的生命体がいる直感。魔法の類では無く、人間に長年触れてこなかった故に人間がいない環境に慣れてしまい、周囲に人間がいない筈の空気が違う事に敏感になってしまう。
「む?……お前、どこから入ってきた」
その気配がする方向に振り向くと、ボサボサな金髪をした少年がこちらを見ていた。
その瞳は朧げで、両足が揃っているというのに全く支えになっていない。そよ風ですら、この人間を倒してしまうのでは無いだろうか。
少しの間視線を交わした後、その少年は奇跡的に保っていたバランスをとうとう崩し、フラフラと身体を揺らし始める。
「お、おい。大丈夫か」
いくら嫌いな人間の子とはいえど、満身創痍であるならば多少心配もする。
いよいよ彼の意識が途絶えたと判断した私は、手を差し伸ばし、何十年ぶりに人間に触れる。
嫌いなものには関わりたくは無いが、目の前で倒れられたら放っておけまい。
それに、どことなくこの少年はあの子に似ていると思ってしまったのだ。
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