第2話 この世界は

 焼ける。溶ける。沈む。崩れる。

 人々の戦慄き。大地の激震。文明の崩落。日常の終わり。


 この世界はもうずっと争いを続けている。時間にしてもう百年は過ぎた。

 実際、百年もの間銃火器が鳴り続けたり、戦車が道を踏み荒らしている訳じゃない。

 戦争とは敵が全員死んでこちらの勝利となれば終わりなのだ。もしくはその逆。

 問題なのは、誰が敵で誰が味方なのかが分からない事。世界中を巻き込んだ戦争を終わらせるには百年じゃ足りなかったらしい。


 痛いと子が叫ぶ。助けてと女が祈る。逃げろと男が戦う。いつの間にか意味を失った戦争を止めることは誰にも出来ない。人類の自殺とも言えよう。


 事の発端はなんだったのか。それはある国の理不尽な圧政が原因だった。富める者を優遇し貧しい者を排斥する。

 美しい国を目指したその王は、全員で美しくあろうとしたわけでは無く、民の選別を行い、美しい国を作る為に貧しい者達を犠牲にした。

 これにより、国民の中にも対立がおき、小さな諍いが段々と大きな戦争へと発展してしまったのだ。

争いが争いを呼ぶ。血が血を呼ぶ。命の抜け殻が街に増えていく一方だ。


 そんな惨たらしく救いようのない光景に、希望なぞ無い。

 しかしそれでも人は願った。民は天を仰いだ。


 ──誰か、この世界を救ってくれと。


 何も持たず、命を終える最後に誰しもが抱く願望。

 光なきこの世界に灯りを照らしてくれる、誰かを待っていた。




 その願いは世界に受諾された。その声は世界が聞き届けた。

 命が失われていくだけの世界で、ある一つの新しい命が芽吹く。


 その少年は自分が何者であるかなど分からない。与えられた銘しか分からない。

 しかし、それを口に出すことで自分が存在できている事を確かめる。


「僕の名は、カウル」

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