人間嫌いの魔女

大枝しお

プロローグ

第1話 魔女ダレル

 その魔女は人間が嫌いだった。


 魔女とは悪魔と人間の混ざり物。

 世界に嫌われた存在であり、宇宙に必要のない生命。

 自身にも人間の血が流れているというのに、あらゆる生物から忌み嫌われる。

 だって、悪魔の血が流れているのだから。


「…………」


 何をするでも無く、ただ漫然と過ごす。

 そこは人の手が届かない辺境の地。この世の果てはどこだろう、という問いがあったのなら、ここではないかと言えるくらいにどこからでも遠い場所。

 魔女と言えば、大きいツボで紫色の液体をかき混ぜていたり、よく分からない薬草とよく分からない文字で書かれた古びた本に目を睨ませていたり、とそんな想像をされがちだが、実際はそんな事をしない。

 いや、その魔女によって変わるが、少なくとも私はしない。するのも面倒だし、する目的がない。

何かしたい事があれば、大抵は叶える手段は持っている。

 今日は心地よい晴れの日。ご飯は何にしようか。


「まず、アップルティーは外せないな。……ふむ。パンとチーズでいいか。──よし」


 そう決めたら、後はそれらを用意するだけだ。

 木漏れ日が窓から差す中、こじんまりとした一人分のテーブルに向かって、指をパチンと鳴らす。

 木造の小さい家で破裂音が響く。すると、何もなかった筈のテーブルの上には、その音に呼び出されたように、一杯のアップルティーと二枚のバケットにおかずのチーズとコーンスープが出現した。

 ……うむ。コーンスープは指を鳴らす直前で飲みたくなってしまったのだ。


 何も無いところから物体を出現させる奇跡、ソレをある世界では魔法と呼ぶらしい。一般の社会や人々には見せてはならない、秘匿されるべきモノ。

 まあ、私の存在自体が人には見せてはならないようなモノだから、それに関してはそれほど気にすることでも無いが。


 簡素な朝食。私はどちらかというと少食だからそこまで必要ない。がいた頃はもっと豪華であったのだが、今はもうそんな量は必要いらない。

 もうこの生活にも大分慣れたものだ。いや、元に戻ったというのが正しいか。

 このご飯が終わったら外に出て日でも浴びようと決めて、一口目のアップルティーを口に運ぶ。


 あの子が好きだった味。今では私も好きな味。今日も、穏やかで平凡な日がやってくる。

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