第9話 始まりの迷宮で邂逅(5)

 どれだけ考えても答えはでない。この世界に生まれたダンジョンってなんだろう。

ファンタジー小説かRPGゲーム的な空間。どこかにある異世界の可能性は微レ存?


 目的を秘めた誰かに繋げられた地球と別次元にある空間かもしれないダンジョン。

なんとなく考えたのは誰かが異世界に実在する場所と時空間を融合させた可能性だ。


 たまたまモチーフが一致するようなはずもなく誰かの作為が絡んだように感じる。



【単独デ階層ノ攻略ヲ確認】――いきなり頭に響いた機械音の意味を改めて考える。

 ここまでの現象で不可能じゃない事実を意識しながら推測と想像で補ってみたい。


 地震の直後にダンジョンが生まれた事実からお互い連動したと考えるのは正しい。

先行する誰かさんが正規に入場しなかったことは偶然にしろオレたちは誘導された。


 しばらくの時間を置いてから再び機械音が伝えられた時点で階層主まで討伐した。

ほんのわずかな時間でボスを倒した先行者は機械音に導かれて攻略したのだろうか?



【新人類ノ進化誕生ヲ認識】ここを先行している誰かは人間じゃない可能性がある。

 まさかの想像だけど地震に巻きこまれた小動物が新たな人類に進化した可能性だ。



 なんとなくイメージしただけで浮かんだありえない妄想に自分を殴りたいぐらい。

これが正しいか間違いかは別にしても究極的な二者択一みたいな感じかもしれない。



『進化した人間』それは果たして新人類なのか? リアルにニュータイプの誕生だ。


『動物から進化』そっちは身体が人間だろうか? おそらく獣人族カテゴリになる。



 どちらか正解だったりするんだろうか? そもそもそんなことはありえないって?

人類とまったく異なる存在なら嬉しい誤算になるし妄想するだけでオタクは楽しい。



 彼が三倍速で動けるなら宇宙世紀バトルでケモ耳もふもふの新人類なら愛でたい。


 結果がどちらにせよオタクにとって新たに生まれるかもしれない理想の進化系だ。

ニヤニヤしながら長々と妄想したようで傍に立つ永依にお怒りモードで睨まれたよ。


「先行する誰かさん……いわゆる階層を攻略してくれたんだ。しばらく安全だよね。

こっち検証を始めよう……」喜びで破顔一笑する永依を意識して先に苦言を呈する。


「ぜったい無茶しないこと。ちゃんと言葉の意味を理解してから行動できるかい?」


「りょっケーちゃんに逆らわない。ちゃんと考えるからゼッタイダイジョーブだよ」

 満面の笑みを浮かべる永依が腕を振りかざし喜ぶ姿はかなりのレアかもしれない。




 巨大な扉の左下で七色に輝くタッチパネルに対してカードを同時に重ね合わせる。

その瞬間タッチパネルに不思議な輝きが増すと同時に一切の音もなく扉が稼働した。


 正面から見つめ合い吹きだしながら折角だ誰かの招きに応じて奥に進むしかない。

横並びでゆっくり扉を潜りながらダンジョンの境界を超えるような意識もなかった。



 入室した瞬間から視界から外せない幅五メートルほどの無骨な階段に全集中する。

石造りの岩肌で装飾など一切ない無骨すぎるブロック状の切りこみがある大階段だ。


 当前だけど誰もいないしなにもない場所で天井まで見上げるぐらいの高さになる。

「あーしらもやっとこっからダンジョン。これが冒険の始まりだよケーちゃんっ!」



「そうなっちゃうよな。絶対に死なないことと極力ケガをしないように気をつけて。

ここから先は優先順位の問題だけど調査しながら分析とか検証作業になるからね?」


 わからないから事前調査の意味合いでも安全確保は最優先。それから検証作業だ。

周囲は普通に岩肌の壁なんだけど触診して素材を確認してもおかしな感じはしない。


「ほらほらケーちゃんしっかり見てよねー。めちゃくちゃでっけぇ階段なんだよー」

 ほぼ一瞬で階段昇降口に駆け寄った永依がジャンプしながら満面の笑みで叫んだ。


「うん。ゆっくりとなら先に進んでいいよ」一歩ずつ階段に近寄り手のひらで触診。

 こちらを一瞬見つめた永依が腕を振りながら階段下を見つめ勢いよく駆け降りる。



「世界を生んだ神なんて存在はファンタジーでもダンジョンを創造した誰かはいる。

まさかだけど脅威か試練を与える遊戯板かな……先行する誰かの目的も見えないし」

 いよいよここからダンジョンになるから冒険物語ならスタート地点かもしんない。


 スケールの用意はないから目測だけど幅だけでも五メートルぐらいあるんだよね。

石造りで一段ごとの踏面はおよそ三十センチ。蹴上の高さが十二センチぐらいかな。


 ゆっくり数を意識して降りると二十五段で踊り場はおよそ三メートル昇降になる。

百段ぴったりで階下に到着できたから階高およそ十二メートルぐらいになるだろう。



 視界はかなり不明瞭で奥まで見渡せない暗さに周囲をあわく照らすような岩肌だ。

あわい光源でも数メートルぐらいは目視可能で横並びして歩けるぐらいの幅がある。


「ケーちゃんモンスターなんか気配もないし一本道だからガンガン行くっしょー!」

 わざわざ立ち止まり腕を叩いて催促する永依にあきらめ半分でうなずくしかない。



 右脚の太ももから下を切断する原因になった骨肉腫は若者特有の癌になるらしい。

右脚代わりの義足を装着してから十数年が経過した現時点では日常みたいなもんだ。


 激しい運動はできないし全力で走れないだけで日常の生活と行動面に支障はない。

この先はダンジョンで未知の場所なんだから調査する意味合いでも油断せず進もう。

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