第10話 始まりの迷宮で邂逅(6)

「うわぁっこいつらなんなんだ……どっかいってくれ。どでけぇムカデヤバいよ!」

 絶叫は周囲まで響きわたり無意識の恐怖心に跳び退りながら岩場で蹴つまづいた。


 おかしな方向に義足が歪むのを見つめる永依の冷たい視線に気づけるはずがない。

初見殺しのモンスターで男として情けないビビり方にマジ泣きして逃げたいぐらい。



「一メーター以上あるムカデ超やべぇじゃん!」戦慄して叫んでも涙は止まらない。

 恐るおそる洞窟を進んでいたらいきなり頭上からモンスターが降ってきてヤバい。


「頭から攻撃されちゃったら逃げれない」見透かしたような永依の反応も手厳しい。

「モンスターのスケールなんかおかしくね? 普通のオオムカデは手のひらサイズ」


「異世界ダンジョンならそんなの当たり前」即応した永依の反応は軽すぎないか?


 ニヤリと唇を曲げながらぐりぐりと安全靴の底でオオムカデを踏んでるよ。

頭ひしゃげてもワサワサした多脚の動きが止まんない節足動物ってヤバいね。


 顔色も変えない永依が害虫みたいに全身を踏みつづけるとやがて止まった。



 たくさん足の生えたムカデは肉食性で漢字が百足になり運動性に富んでる。

オオムカデは致死性ないけど毒があり触れるだけで大惨事になる嫌われ者だ。


「やっと仕留められたけどしぶといじゃんかよ。ドロップ品もなかったしー」


「うん。死んだら状態そのまんま残っちゃうし内蔵飛び散ることもないよね」


 今後のためと死骸の各部位に触れながら確認すればブヨブヨ感がキショイ。

永依にお願いしても判断できない類の検証だから自力でやるしかわからない。



 補足するとゲームならモンスターを倒せばドロップ品が落ちる場合もある。

もちろん目に見える成果はないんだけど経験値に変えて与えられた可能性は?



 なんとなくうす暗い通路脇を目で追うと這いずり進む細長い身体が見えた。


 女の子なら速攻で逃げたくなるはずの気色悪いうにょうにょモンスターだ。

うす黒いピンクの肢体で前進しているメチャクチャ気持ち悪い生物なんだよ。


「ケーちゃんの番だから倒しちゃってよー」平常運転の永依がぶん投げした。



「かなりキモいんだけど」全身強張る自分を足先で突かれて永依に促される。

「…………まじヤバだよ」ミミズでも太さが3センチぐらいあって気味悪い。


 ウネウネしながら這いずる体はヘビそっくりでもうす汚いピンク色なんだ。

50センチ近い謎生物だけど白人のナニそっくりでヤバすぎるおぞましさだ。


「デカすぎてキモいし言葉にできない洋物ポルノにでてくるヤリチンみたい」

 ちょっと言葉を間違えるだけでセクハラのほぼほぼ犯罪認定されちゃうね。



「アッハッハほんそれー。ケーちゃんのサイズしんないから興味あるっしょ」


「マジでドン引きだからやめてよ。まぁ中身が飛び散らないだけマシだよね」


 こぶしで地面を叩きながら大笑いの永依に苦笑して金属棒を何度も振るう。

モンスターかミミズかわかんないけどヤバい見た目がようやく動きを止めた。


「フニャフニャしたぶっとい身体マジもんに気色悪いから全スルーしたいな」


「これも冒険だからしゃあないよ♪」うめくような声に即応した永依が笑う。



 ゆっくりと進めるなら義足で問題ない程度に道なりの状況は悪くなかった。


「道路のこっちほとんどテニスコートなんだよ。一キロないのに長くねえ?」

 傍らにいる永依もこっちにあわせた速度で進んでくれる。純粋に疑問かな。


「そだねぇどう説明すればうまく伝わるかなぁ。たぶん別次元になるんだよ。

入口はテニスコートの横でも位相が違うと……二次元は面の三次元が立体で」


「そんなの聴いてもわかんねえ。ややこしい説明とかされるだけムダっしょ」

「…………」頭を抱えた永依に無言の応酬だけどおバカちゃんに完治はない。



「ここの地上とダンジョンは別の場所にあるから相互干渉できず関係ない?」


「それだぁそんなの関係ねーそんなの関係ねー。ほんそれかもしんないねー」

 すべてお笑いネタに結びつけるようとする永依には苦笑するしかできない。



 ゆっくりとうす暗い一本道のダンジョンを進むんだけどデカいアリさんだ。

それでも5センチぐらいなら怖さを感じないからモンスターでもザコになる。


「きっとアレのおかげだよ。先行するヤツが階層主を倒したからザコばっか」


「ふーん。そんならさぁボスがいるはずの奥? 突き当たりまで急ごうよぉ」

 即応した永依にうなずき返しながら迷いようがない一本道を進むしかない。



 モンスターを倒しながら数十分経った頃だろうか最奥部になる空間にいた。


 通路を抜けた先に見える『国境の長いトンネルを抜けるとそこは雪国……』

なんてこともない地下だ。当たり前だけど明るめの岩肌が拡がる場所だった。



 ドン突きの岩壁にある謎の文様が描かれた金属扉が開かれたまま奥に誘う。

描かれる文様は入口そっくりで縦横比だけが小さめの2メートルぐらいかな。


 前に近づいた瞬間の異様さに戸惑いながらおかしな緊張感で立ちすくんだ。

この先にいる誰かさんは先行者だ。それが敵か味方なのか誰にもわからない。

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