第7話 始まりの迷宮で邂逅(4)

 突き当りで唐突すぎる怪しさに立ち止まり扉に背中を預けると頭がクラクラした。

おかしな機械音に導かれたテニス協会建屋でツッコミどころしかない永依はヤバい。


「あーしらさぁNSC卒業したばっかで誰も聴いたことない芸人とちゃうんやでぇ。

モンスターにダンジョンでイキリ倒しとるやつやっつけに早よ行かんとあかんねん」


 手のひらすりすりしながら妙なイントネーションでボケる永依はかなりおかしい。

まあ実姉である永依の母に昔っからパシり使いされた経験で耐性はあるんだけどね。



「いやいやいやいやエーちゃんさぁツカミ。ネタから駄々滑りしまくってるじゃん。

大きな地震の揺れが収まってすぐに靭公園きたんやで。そこから説明しよっかぁ?」


 あえて関西弁での煽り返しに即座に反論がない時点で本音が駄々洩れヤバすぎる。


「うぅそりゃそぅなんやけど全然ネタちゃうっしょ。インチキしてんのあいつやん。

ダンジョンの先いっちゃってるあいつのせいやんか。いますぐ追いかけなあかんし」


 ヤバい長広舌にツッコめない……永依のお粗末な思考が残念すぎて声でまへんわ。



「ダンジョンの中なんにもわからん。試練の時ってヤツは全スルーしたらえぇんや。

メリットよりデメリットの問題やから判断ミスとか考えるだけで恐ろしいもんなぁ」


「……………………」永依がわかるようにゆっくりを意識した関西弁返しは沈黙だ。



「エーちゃんの考え丸わかりや。ゲームのダンジョンならなんも問題ないんやで……

死んだり大ケガなんかせーへんしなぁ。モンスター徐々に強くなるんもお約束やし」


 強く戒めようとネタに走ったこともおバカな永依を調子に乗せないための牽制だ。


「ゲームとリアルは違うんやから。一撃でモンスター倒せるんならなんも問題ない」

 先走る感情を抑えるための楔にして落ちこむぐらいに追撃すれば心に届くかもね。



 この扉を潜り抜けた向こう側……間違いなくダンジョンまで繋がる階段があるよ。

巨大な扉を開閉させるためのカードは正規に入場したことで苦労もせず与えられた。


 もちろんダンジョンは未知の場所で世界中の誰もしらない場所に興味が尽きない。

直情おバカちゃんでもそれなりの強さで頼りになる相方が芸やらなくても傍にいる。



 この世界で初めてダンジョンを創作の意味で定義した小説やゲームはどれだろう。

現実逃避する意味じゃなくリアルに誕生したダンジョンを考察する一環での疑問点。



 幼少期からかなりのマンガ好きでアニメを何度も見直すほど重度のオタクだった。

もちろん小説は月に数冊を熟読するぐらいでミステリやハードボイルド系が好みだ。


 活字中毒と呼べないがジャンル不問に千冊を超えた読書量で読解力は身についた。

走ることが昔からの生きがいだったけど右脚を失くしてから得たものも多いはずだ。


 アクションやバトルで好みのアニメ作品なら映像的な美しさと迫力が優先される。

半世紀近く前に生まれたゲームだろうけど大昔の記憶を伝って親が話題にあげた――


 スマホどころか有線で通話するしかない昭和時代の末期で日本は戦後の復興期――

令和の現代でも世界的に有名なリンゴマーク。コンピュータの開発企業が誕生した。



 ほとんど消滅した記録媒体カセット型磁気テープで動く初期の言語プログラムだ。

小さなモニターの据え置きPC本体は自室で使用するために開発された経緯がある。


 実際にゲームで遊んだことはなく初期ソフトやハードを収集するマニアでもない。

縦スクロールのアクションゲームは地下迷路に現れる敵を倒しながら進むタイプだ。


 中世の幻想的なヨーロッパが舞台だからファンタジーの定番なら指輪物語になる。

実写版の映画も公開されて「ロード・オブ・ザ・リング」原題のまま大人気だった。


 それらのすべてがルーツになるかもしれない次元の理と空間が異なるダンジョン。



 正解なんてどこにもないんだけどダンジョンはでたとこ勝負みたいな感じがする。


 過去を振り返って長考したらしく気づかずにそれなりの時間が経過したみたいだ。

気の短さなら定評ある一族でも末端にいるギャルが暴走モードになる直前だったよ。


 しばし意識が囚われて気づいたタイミングを見計らうようにして機械音が響き――

【単独デ階層ノ攻略ヲ確認】先行する誰か早すぎるよね【新人類ノ進化誕生ヲ認識】



「うおぉマジかよ。いつの間にやら先行した誰かさんが階層主まで倒しちゃったね。

オレたちなんて地下に降りる階段もまだなんだけど攻略するの早すぎませんかね?」


 信じられないほどの短い時間で一層だけでも攻略されたことはあまりに想定外だ。


「あぁマジもんで残念すぎっしょ。インチキしたヤツに一番乗りまで取られちった」

 すぐ傍で叫んだ永依を見つめながら頭のなかで様々な方向に思考を巡らせてみる。


「勝ち負けなんかじゃないけど……ダンジョンの一番乗りが優位なわけでもないし。

それでも誰も想像できない先にある未来を変える可能性。その始まりかもしんない」



「マジもんでわけがわからないんだけど」永依の思案に満ちるような表情は珍しい。

 これ以上調子に乗せないために楔として打ちこんだ作戦が成功したかもしんない。


 この巨大な金属扉の先がダンジョンだけど……理解一つもできない状況のままだ。

見えない未来に困惑しかないけれど可能な範囲だけでも安全を確保する必要がある。


――明るい未来をイメージできれば新たな世界が見えるようになるのかもしれない。

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