第6話 始まりの迷宮で邂逅(3)

 ほんの数刻だけ間を置いてイントネーションが微妙に異なる機械音が追加される。

――【始マリノ迷宮デ討伐確認】先行する誰かさんか?【討伐者ニ初回特典ノ付与】



「ここって始まりの迷宮だったよね。脳内のインフォメーションなんかおかしい?」

 入口の取っ手を握り締めつぶやきをこぼしたのとほぼ同時に永依の叫声が上がる。


「ねぇねぇケーちゃんさぁ! さっきの声ってあーしらより先いってるヤツじゃん。

うちらより先行しながらモンスター倒してんだよ。あーしらなめられてんじゃん!」


「うん。いまのオレたち入口にもついてないよ。でも誰か先行した形跡もないよね。

やっぱオレらより前からダンジョン入りできた。初回特典ってまったくの謎だけど」

 ごくわずかな時間でモンスターまで倒しちゃえる強さなんだから仕方がないよね。



「勝手に先いっちゃってムカつくっしょ。ダンジョン特典とられちったの悔しい!」

 革製グローブに包んだこぶしを震わせて怒りを表現するギャルが恐ろしく見えた。


「試練の時なんてうちら必要ないじゃん!」炎が宿る永依の双眸を見ながら考える。


「んーそれならそれでいいや。じゃあ二人とも一入場しようかな。よろしく」

 永依の勢いに乗せられたけどダンジョンの突入は成り行きに任せてみるか。



【入口デ正規ノ入場ヲ確認】正規じゃないんだ。【許可証ヲ全自動デ作成ダ】

――追加された機械音と同時に七色に輝く球体が突如として目の前に現れた。


「…………?」あまりに不可解な現象に言葉もない。光球はすぐに破裂する。


 メタリックに輝きながら免許証サイズのカードが空中に出現したんだけど。

真っ白に輝きながら残照だけ残して重力に導かれるようにカードは落下した。


「このカードどうすんのかなぁ?」無意識につぶやいて落ちたカードを拾う。


「えっとさぁ鍵なんじゃね? たぶん扉から出入りすんのに必要なるんだよ」

 床から拾い上げたカードを裏返して確認しながら永依の言葉にうなずいた。


「タッチパネルかな?」金属扉の左下に七色に光るプレートを見つけて驚く。



「なんかメッチャ凄い技術だよね。きっと入退室用の自動識別装置なんだよ」

 白い輝きを放つ金属なんて材質に見当つかない厚み1mmぐらいのカード。

これって完全に免許証と同サイズだよね。JIS規格に完全準拠されたかな?


 ダンジョンを創造した誰かさんに忖度でもされたかと考えて数字が見えた。


「表示された番号が00000000021だって!? ちょっと待ってよ」

 自分の手で拾いあげたカードに並んだ数字を確認しながら無意識だったよ。



「ちょと待ってちょと待ってお兄さんラッスンゴレライってなんですのん! 

めちゃめちゃ懐かしいね。それ新人コンビの大バズリしたお笑いネタじゃん」


「えーっと2014年ごろだったっけ! あれ完全一発屋芸人のネタだから。

ネット発祥の噂で消されたお笑いコンビ。エーちゃん当時おこちゃまだろ?」


「ちげぇし! ガッコでおバカがネタしてたのママ専用の図書室あっからさ。

メッチャ昔のお宝DVDいっぱい見たっしょ。雑誌とコミックも読んでるし。

めっちゃおもろいマンガとアニメばっかだよ。いっぱい泣かされたんだよー」


「ネーちゃん趣味は悪くないからね。オレと変わんないレベルでオタクだし」

 たぶん両親ともに70年代最初期オタ世代なんだよね。冷汗が止まんない。



「でもねぇ十一桁の理由だけどケー番を意識してないか勘ぐりたくなるよね。

たぶん関係ないんだろうけど。いちじゅうひゃくせんまん……100億かな。

最大で999億ってことだからどこから来てんのよ。つーか21ってのがさ」


「あーし31なんだけど」カードを確認しながら永依がつぶやきをこぼした。


「へっ? 十一桁目が1ってことはアレじゃね。最大で数字が99億じゃん。

いま地球の人口だいたい70億ぐらいだからたぶんそっから来てるんだよね。

それじゃあ十桁目はオレが2でエーちゃん3だ。だから討伐者が1なんだよ」



 取得した順番でカード番号が00000000011。その一番は誰だよ?

これからダンジョンで出会うことになる相手が敵か味方かわかんないけどね。


 ダンジョンを検証するため二人で動きながらまず情報を集めようと考える。

『始まりの迷宮』その由来になった理由が同時多発のダンジョン誕生だよね。



 どこの誰がどんな思惑で次元の異なるダンジョンを地球に創造したのかな。

たぶん人に理解できない存在なんだよね。神のみぞ知る領域にいる誰かさん。


 右足を失ってから走ったり闘ったりできないのは仕方がないとあきらめた。

平等なんて言葉のつじつま合わせで世界は障がいを負った人間に優しくない。

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