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「私、分かったかもしれない。」
「ん?何が?」
「“探偵さん“の言ってた“善意“の意味。知らないことが善意だってやつ。知らない方がいい事ってあるよね。」
いつもと違う角度で見る“探偵さん“はいつもよりカッコよく見えた。
こんな幸せな日も、あの人が今日私がしたことを知ってしまえばなくなってしまうだろう。世間は私をもうバッシングし、もしかしたら中学時代よりも心に闇を産むかもしれない。あの人は香織の告白を聞いた上で私に告白してきたのだから、あの人は香織よりも私を選んだと言うことになる。しかし、私がした行いを知ってしまったら、あの人だって意見を変えるかもしれない。知らないと言うことは善いことだ。一生知らないでほしいな。
「“善意の名探偵“結構良いだろ?」
何も知らない名探偵。知らないってことは“善い“こと、間違いない。
「あの、不機嫌になったりしてごめんね。私、気づけなくて…。これからは一生隣に居てね。」
あの人は無言で頷いた。
やった!あの人は“これからは一生隣に居てくれる“!私はあの人と一緒だったら何も怖くない。これから訪れるであろう世間からの批難や中傷も、あの人と2人で耐えてみせる。2人で言われる分には何も怖くない。中学時代と違って私は何の配慮もなくあの人の隣にいることが出来るようになったんだ。それはあの人だって、認めてる。もう、怖いものなんかないじゃないか。怖くなんかない…。
「あの、ありが…。」
精一杯の誠意と感謝の言葉をあの人は遮った。
「報酬は要りません。善意でやっておりますので。」
春風が既に散った桜を再び空へ巻き上げた。
一瞬、香織を蹴った時に出た真っ赤な血の軌道と重なり、先程の高揚感が一気に冷め、不快に思った。青春なんて嘘っぱちだ。
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