8

あの人と口喧嘩をした日、香織は買い物に行くと、言っていた。それが本当か嘘かは分からないが、 香織は部活には来なかった。香織が部室に来たのは私たちが校舎の外に出てからである。香織は図書室の脚立を使い、ドアの上の窓から部室に侵入した。高橋先生はドアの上の窓を確認していないため、開いていてもおかしくない。香織はその後、部屋の電気をつけて何か、をした。その後部室のドアを開けて脚立を部室の中に入れて、内側からドアの鍵をかけた。そして電気を消して、再び脚立を使って部室の外から出た。これなら、高橋先生の証言とも食い違う事は無い。しかし、これだと上の窓の鍵は空いておらず、脚立は鍵のかかった部室の中にあり、私が確認した時の部室の状態と異なる。そこであの人の出番だ。あの人は私達が来るより前に部室の鍵を和田先生から借りて、上の窓を閉めて、脚立を図書室に戻し、鍵を閉めた。そしてあの人はこの事件は地震という自然現象によって起こったものだと主張した。香織があの日、部室で何をしていたのかは分からないが、あの人と香織、この2人の行動に共通するものがある。それは、お互いがその行動を庇いあっていることだ。ドアの上の窓の鍵がしまっていなかったことと、脚立が部室の中にあったことから、地震のせいではないことは明らかに分かるのに、あの人は地震のせいにしようと密室を作った。これは香織が部室に入ったという事実を消そうとしているに違いない。一方で、香織も、部室に入ったということは私と米道くんには言わなかったし、部室から退室した時と、私たちが部室に来た時とでは部室の状況が変わっているにも関わらず、それを指摘しなかった。つまり、あの人と香織は今回の件は裏で通じていると考えられる。1番妙なのが、侵入の際に脚立を使うことは仕方ない事だが、脱出する時はドアの鍵を開けて出れば良いだけのはずなのに、わざわざ脚立を室内に運び、窓の上のドアを使用した事だ。香織はいつもあの人を小馬鹿にしているように見えたが、なぜそこまでしたのか。私には香織が前言っていた、“自分に嘘をつけない“という言葉が引っかかった。思い返すと不自然なことはいくつもあった。あの人がスマートフォンのパスワードを設定していたこと、あの人が香織を「可愛い」というと決まって睨むこと、私が「チョコが好き」と言っているのを聞いといて違うものを頼んだこと。これらは全て繋がっているように感じた。あの人と香織は浮気してるんだ。あの人は香織とのLINEを私から隠し、浮気がバレるのを恐れて「可愛い」といわれると“バレるぞ“と警告して睨んだ。そして、香織は私に嫉妬して私の好きなものを聞いといてあえて頼ませなかった。


香織は“自分に嘘がつかない“から演技をする人だ。香織は“あの人のことが好き“という気持ちに嘘を付かず、“私を応援する“演技をしたんだ。


いや、待って。これじゃ、あの人と同じで、思い込みが激しい人じゃないか。香織は親友なんだ、あの日何をしていたか、聞いてみないと分からないじゃないか。それにあの人と私は付き合っている訳ではないのだから浮気でもなんでもない。でも、香織は私に「応援してる」と言ったはずだ。私の感情はもうグチャグチャだ。

 写真部の部室は電気がついていなかった。今日もまた、香織は誰にも気づかれないようにヒッソリと何かしているようだ。ドアもドアの上の窓も鍵がかかっていて中に入ることはできない。諦めようか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る