7

タプタプに膨らんだ腹と、ハゲかかった頭、一昔前のガリ勉がつけていそうな丸メガネ。


写真部顧問の和田先生その人だ。顧問と部員の関係ではあるが、ほとんど話したことはない。部活がある時に、鍵を貸し借りしているのは毎回、あの人だ。


「和田先生、聞きたいことがあるんですが。」


和田先生は椅子に深く座っていた。私は和田先生の背中に向かって話しかけたが、和田先生がこちらを振り向きもしなかった。


「なんだ。」


「こないだ私たち4人で鍵を借りに来た日があったじゃないですか。あの日って探偵さん以外に鍵を借りに来た人っていますか?」


「いない。」

この聞き方だと、和田先生はこう答える。あの人はこれを狙ってこう聞いたのだろう。あの人は和田先生を密室を証明する証人に仕立て上げようとしたのだ。


「では、それは何回?」


和田先生は私の質問を不思議に思ったのか、少し首を傾げた。


「2回だ。」


 推理通り。あの人は時間帯は分からないが、私たち3人が写真部の部室を訪れる前に写真部の部室の鍵を借りて密室を作り上げたということだ。あの人以外の誰かが、「放課後以前に鍵を借りた人はいませんか?」と尋ねていたら答えはすぐに出ていた。あの人は誰よりも先手を打って、今から見せる部室はあたかも誰も手をつけていない新鮮な現場だという認識を私たちに植え付けようとしたのだ。いや、正確には“私“と米道くんに、か。


 無人の密室内で電気がついたという謎の答えは、密室ではない部屋で人間がスイッチで電気をつけた、が正解である。あの人が密室を作りさえしなければ、何も不思議な出来事ではなかった。では、なぜあの人は部室を密室にしたのか。答えは簡単である。あの人は庇っているのだ。というのも、この事件、密室を作ったのはあの人だが、電気をつけたのはあの人ではない。なぜならあの人は私と同じで正門付近で部室の電気を見て、そのまま帰宅した。しかし、高橋先生が2回目に部室を確認した時には電気は消えていた。よって、あの人は部室の電気を付けた人物ではない。あの人が庇うような人と言えば名探偵部の部員に限られる。しかし、米道くんはその日はバイトに行っていた。これは長岳先輩からも証言を貰っている。選択肢は1つしかない。ふざけるな、私のこと「応援する」とか言ってたくせに。




裏切り者。



ふと、もしかして今日も来ているかもしれない、と思った。


「和田先生、部室の鍵、借りれますか?」


しばらく無言で和田先生の後ろに立っていた私が再び話しかけたので、流石の和田先生も驚いたようで、上半身だけこちらに向けた。


「なんか悩んでるのか?部室の鍵ならもう持っていったぞ。」


「誰が?」


「坂火香織だ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る