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 結論から言うと、高校では悪口を言われなかった。私が気づいていない可能性もあるが、私とあの人のことを、「付き合ってるんでしょ?」などと冷やかしにくる人こそいるが、小馬鹿にしたり、気味悪がったりする人はいなかった。私が気づいてないだけな可能性はあるが、私が気にならなければそれはないのと同じだ。むしろ、悪口があったとしても気にならないあの人のようなメンタルが欲しい。あの人は文化祭で一躍人気者になり、私の一歩前から離れてしまいそうで、不安になったが、人気は1週間程度で落ち着き、いつものようにあの人の一歩後ろは私だけのものに戻った。


 部活の時間も好きだった。3年生は早々に受験勉強で引退し、2年生の長岳先輩はほとんど部活に来ないので実質、私とあの人の2人だけの活動の時期があった。中学時代の図書室での活動と何も変わらなかったが、それでも良かった。その後香織と米道くんが入ってきた。米道くんは入ってきた時から話しやすく、2人きりで話せるかは分からないが、あの人と一緒なら仲良く喋れた。もし、嫌われたとしても、あの人と一緒だから怖くない。香織は最初は嫌な感じの人が入ってきたな、と思った。金髪ショートでスカートは嘘みたいに短かった。くっきりとした大きな目をしていて、目が合うと思わず逸らしてしまう。この人は私やあの人に悪口を言うタイプの人だ、と感じた。どうしても男2人女2人だと、香織と2人きりになる機会が避けられないことがあった。香織は話してみるととても良い人だった。香織は見た目で誤解されることが多く、悪口や陰口を言われていると私に告白した。私はあの人以外に初めて同類に会った気がして嬉しくなった。私は香織に中学時代の私の話なんかも話したが、香織は嫌な顔せずに辛かったね、と一緒に泣いてくれた。私は初めて親友を得たかもしれないと思った。

「悪口言われっぱなしはダメだよ。私は最近男ウケ狙ってるぅ、とか外面ばっかり拘って頭悪そうとか、言われるけど、それ言われる度ムカつくからスカート短くしたり髪染めたりしてるし。」

「逆に?」

私は笑ってしまった。

「そうよ。そういう人たちの思い通りになったら面白くないでしょ?」

「坂火さんは、強くて素敵だな。私には無理だよ。」

「私は全然強くないよ。自分に嘘をつけないんだもん。嫌いな人間には嫌いって言っちゃうし、欲しいものがあったらすぐ買っちゃうし。」

「凄いじゃん。私は1人じゃ何も出来ないよ。」

「私はそんな自分が嫌いなんだ。我慢できないから人に嫌われて、自業自得なはずなのに悪口言われて、さらにそれに怒って。だから私、自分を演じることにしたの。」

香織は自分が部活を辞めて演劇を始めた理由を語った。香織は自分の未熟さを演技で補うことにしたのだという。本心を一生懸命隠して隠して、良い子になろうと努力しているのだ。香織は凄い、尊敬した。

「波上さん、いつも“探偵さん“の言うこと肯定してない?」

「うん。“探偵さん“の言うことはいつも正しいから。」

「そうなの?“探偵さん“より波上さんの方頭いいみたいだし間違ってる!って思うこともあるんじゃないの?」

「うーん。まあ思うこともあるけど…。」

「言った方がいいよ!“探偵さん“だって言ってほしいと思うよ。」

「“探偵さん“怒らないかな?」

「“探偵さん“が波上さんのことそんな事で怒ると思う?」


香織は私の手にそっと手を重ねた。

「大丈夫だよ。波上さん可愛いから。」


白くて綺麗な歯を見せながら香織はニッと笑った。

あなたの方が可愛いよ。


香織と私は下の名前で呼び合うようになった。下の名前で呼び合うことなんか、あの人ともなかった。香織と仲良くなってから香織は私に色々なことを教えてくれた。それは教養ではない、感情だ。楽しい、悲しい、面白い、全て理解していたつもりだったが、理解できていなかった。友達と一緒に楽しんだり、友達のことで悲しんだり、一人で感じてきた感情とは比にならないくらい心が動いた。何より、友達とどうでもいい事で笑い合うことがこんなに面白いことなのか、と。香織は恋バナでも盛り上がった。

「マリエって“探偵さん“のことどう思ってるの?」

「どうって?」

「ほら、好きとかさ。お似合いじゃん。」

中学時代に散々されてきた冷ややかなイジリと同じ内容なのに、香織からの質問はとても温かく感じた。

「好きとかよく分からなくて。」

あの人と付き合えたら良いな、と思っているが、これが恋なのかは分からない。

「私が偉そうに言えることでもないけど、マリエは“探偵さん“のこと好きだと思うよ。そういう目をしてるもん。」

根拠がない。でも、恋心に根拠を求めることが間違っているのかもしれない。

「香織は好きな人とかいないの?」

「え?うーん。分かんないや。」

「香織も分かってないんじゃん。」

私たちは2人で笑った。

「でもさ、マリエは“探偵さん“とずっと一緒にいたいんでしょ?」

「うん。」

「じゃあもう好きじゃん!私、マリエの恋、応援してるよ。」


気づくと私の日常は、何倍もの文章量で分厚いものになっていた。あの人の一歩後ろに引っ付くのは相変わらずだが、頻度は減ったし、時にはあの人の意見に反論を述べてみた。あの人は相変わらず、自分の意見を突き通すのみだったが、私はあの人はあの人のままなんだと、もし、中学時代のようなことがあっても帰ってくる場所はここにある、と謎の安心感があった。


 

 順風満帆の高校生活であった。あの人に不信感を抱く前までは…。


私があの人に不信感を抱き始めたのは今年の春休みからである。

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