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自転車泥棒は樋口で決まりだ。俺が推理ショーの途中で引っかかったのは間違ってなかった。樋口グループが逃げ出したのはあのまま着信音がならず客の自転車まで調査されることを懸念したからなのか?サドルの裏さえ見てしまえば着信音が鳴らずとも犯人だとバレるから見られる前に逃げたというところか?いや、樋口グループが嫌がったのはそこじゃない。何故ならそこにあるスマートフォンは俺のじゃないからだ。着信音がならなかった時点で樋口たちには言い訳の仕様があった。波上は俺のスマートフォンとサブ端末を入れ替える作業を登校時間中に行っているはずだ。ガチガチにガムテープで貼り付けたスマートフォンを一度剥がして、もう一度別のスマートフォンをガムテープでサドルの裏に貼り付けるのだ。この光景を目撃している生徒は少なからず存在するはずだ。樋口たちはその事実を利用し、俺の自転車にスマートフォンを誰かが貼り付けて冤罪を起こそうとしていると主張すればいい。それをしなかった、だからこそ合点がいった。樋口たちの自転車はサドルの裏のスマートフォンよりも見られたくないことがあったということだ。
俺は事件を頭で整理したかったが、坂火のエールとも取れる告白が脳裏にこびり付いて離れない。反芻される「好きだったよ」という涙声が、俺の背中を後押しして、告白意欲を掻き立てる。必ず成功させてみせる。
バレたということは波上は部室に入ったのだろうか。坂火は部室の鍵を閉めてなかったのだろうか。一体どこでバレたのだろうか。波上は早々に何かしらには気づいていたと思われる。俺が何かを隠しているのだ、と不満になってるのを俺は何度か確認している。しかし、波上の不満もここまでだ。近場を走りさった救急のサイレンが焦燥感を掻き立てるBGMとして機能している。俺は今日と明日で全ての決着をつける。もう何も隠さなくて良くなる。そしてまた、俺は堂々と波上の一歩前に立つんだ。
俺が学校について最初にすることは“新品の自転車“を探し出すことだ。この自転車こそが、坂火と米道と俺で水面下で進めて来た「波上誕生回計画」のラストピースだからだ。
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