5
「おい、どうしたんだよ。続けろよ。」
樋口が途中で終わった俺の推理を急かした。
「あ、ああ。1日目の被害者、居咲先輩の証言と今の樋口の証言を重ねると、犯人が自転車を盗んだ時間は生徒が授業をしており、駐輪場に人がいない間になる。その為には体育の時間を完全に把握しなければならない。よって、犯人は生徒あるいは教師と近しい人物かつ、自動車を運転出来、昼間に行動が出来る職業ということになる。」
「ほうほう。確かにこの店長、生徒と近いだろ?自動車運転出来るだろ?仕事は17時からだろ?全部条件当てはまってんじゃねえか。」
樋口は店長を見ながら、1つ条件を挙げては1つ指を折った。樋口は店長が犯人だと納得したようだった。
だが、肝心な俺自身がさっきからどこか引っかかっている。
「でもそれって、店長だけじゃないよね?なんで店長に特定しちゃったの?」
「それはあれだ。裏門を使用したということは、俺が正門にビデオカメラを設置したことを知っている人物が犯人だからだ。そしてそれを知っていたのが、名探偵部のグループラインに属している坂火、波上、そしてお前だ、米道。」
「ちょっと待ってよ。俺は確かに知ってたけど、俺は誰にも言ってないぞ!もちろん店長にもだ。」
まだ庇うのか、米道。
「米道が店長にビデオカメラの情報を渡し、店長は正門を回避したって訳か。」
樋口が俺の推理を補足する。
「そういう事だ。」
「俺はやってないぞ。米道の友達とは言え、営業中だ。これ以上出鱈目言うなら警察呼ぶぞ。」
店長は声こそ張り上げないがその口調には熱を感じる。店長は怒った時怒鳴るタイプかと思ったが、静かに怒るタイプだったようだ。個人的には後者の方が怖い。
いくらでも言い逃れすることは出来る。しかし、俺には“証拠“があるんだ。
これがある限り、どう転んでもどんなに店長が怒ろうとも、俺の推理は覆らない。
「探偵さんの言うことは大体分かったよ。信じて貰えてなくて残念で仕方ないよ。それに最初に質問した探偵さんの推理の不備について、まだ返答して貰ってない。」
「不備…?」
「店長は今日は仕込みで放課後の時間帯から店にいるはずだ。昼に盗める人間を犯人の対象にしているのだとしたら、今日の自転車泥棒の犯人の対象にはならない。仮に店長さんが探偵さんの言うように裏門から自転車を5台盗んでいたとしても、今日の放課後に犯行は不可能なんだ。それになぜ、今日に限って放課後の犯行だと思うんだ?探偵さんの推理では犯人は人目がつかない昼間に犯行しているって言ってたじゃないか。放課後はなかなか駐輪場から人がいなくなったりしないぞ。」
「米道、その点に関してはなんの不備もない。何故なら俺は姉の自転車に鍵をかけていないからだ。普通に放課後米道が俺の自転車に乗ってこの店に来れば済む話だ。」
「それが不備だって言ってるんだ。探偵さんは言ってることが矛盾してる。」
は?どこが矛盾してるって言うんだ。
俺の推理のどこかに引っかかっていたのは俺も同様だったが、米道が反論すれば反論するほど米道が犯人に見えて仕方ない。
「探偵さんが言いたいのは俺と店長が共犯で自転車5台は店長が、今日の1台は俺が盗んだってことだよな。」
「そうだ。」
「数ある候補の中から店長に絞ったのは正門にビデオカメラがあることを知ってる存在である俺の知り合いだからだよな。」
「そうだ。米道の知り合いでなおかつ昼に自由に動け、自動車を持っている大人だ。」
「ここまで来て、自分の推理の不備に気づかないか?探偵さん。」
なに?一体どこに不備があるっていうんだ。米道はここから巻き返せる策でもあるっていうのか?
それよりも俺が知ってるお調子者の米道ではなく、冷静に淡々と言葉を吐き続ける米道は別人のように見える。俺が米道を犯人だと確信した時点で、米道の中で何かが吹っ切れたのか。これが本当のお前か?
「はっきり言えよ。何が間違ってるっていうんだ。それが言えないなら米道、お前と店長で犯人は決まりだ。」
米道はふぅと深く息を吐いた。
「“正門にビデオカメラがあることを知っている“から、裏門を使用したっていう推理なら、“ビデオカメラがある正門から、今日の放課後に自転車に乗って盗まないよね。“」
えっ
「探偵さん、聞きたいんだが今日のビデオカメラに俺が探偵さんの自転車に乗って裏門から出てきた映像はあったかい?」
ビデオカメラの映像は午前中のまだ途中までしか確認出来ていない。しかし、見るまでもなかった。俺は放課後に裏門にビデオカメラを取りに行き、その場で映像を確認して、波上のいる教室へと戻った。GPSが動いたのはこの間である。裏門でビデオカメラの映像を確認している間は自動車も米道も見ていなかった。とてもじゃないが、裏門から波上のいる教室に戻るまでの時間だけでは、駐輪場から米道のいるバイト先までは間に合わない。犯人は俺が裏門でビデオカメラの映像を確認している時に、正門から自転車を持ち出したのだ。ということは、正門にビデオカメラがあることを知っているはずの米道が正門から俺の姉のおさがり自転車に乗ってノコノコと出てくるはずがないことになる。じゃあ、俺の推理は間違っていたってことか?いや、そう結論付けるのはまだ早い。
「おっと?探偵さん、推理はハズレかな?」
数十秒沈黙を続けた俺に、樋口グループが笑いながら茶化してきた。
「いや、ビデオカメラが正門にないことを米道はどこかで知ったんだ。それなら辻褄が合う。」
「どこかって?それを言い出したら、正門にビデオカメラを設置されてることをどこかで知った生徒が俺や香織ちゃんやマリエちゃんの他にもいたかもしれないとも言えるよね。」
「それは…。」
それはそうだ。どこかでとか言い出したらキリがない。裏門にビデオカメラを置いてることを知っていると確信出来るのは波江と俺だけなんだ。まさか情報源は波江なのか?それだと波江と米道と店長の3人が共犯ということになる。いや、それはない。波江はGPSの作戦も知っているのだ。3人が共犯ならば、姉のおさがり自転車を盗むということがまずないだろう。
ここまで推理したことは全くの検討違いだったのか?少し不安になるが、現にGPSはこの店を位置しているんだ。犯人は店長と米道で間違いないはずなんだ。情報先は不明だが、どこかで情報が漏れて米道は裏門を使わず、正門から今日も自転車を盗んだ。放課後生徒に紛れて自転車に乗るのだからビデオカメラに写っても不自然はない、と強気に判断したのか?どこから漏れたか、という米道の問いに答えは出せないが、強引に正門から盗んだ理由を挙げれないこともない。まあ、でも結局は俺が波上のスマートフォンで俺の携帯に電話を繋げればもう言い逃れはできない。米道に論破されたような形になり、不快ではあるが、俺の知らない所での水面下の動きまでは分からない。推理ショーもお開きにしよう。
俺が何も言わなくなったことに樋口グループはニヤニヤし、店長は呆れ、米道は静かな口調で怒った。
「探偵さん、もう分かったよね。俺も店長も無実だ。流石に庇いきれない。俺はいいから店長に謝罪してくれ。」
それで勝った気か?米道。
お前が今日この店に来た自転車、もう少しよく見た方が良かったんじゃないか?
サドルの裏にある俺のスマートフォンに気づけなかった時点で、いくら上手いこと反論して見せたってお前の負けなんだよ。
「皆さん、実は今日盗まれた俺の自転車にはGPSのONにした俺のスマートフォンをサドルの裏に仕込んで置きました。
そのGPSがどこを位置しているかは勘の良い方ならお分かりですね?
…この店ですよ。」
ゆっくりタメを作ってそう言うと店内が推理ショーを始める宣言をした以来のざわつきを見せた。
米道も店長も樋口グループでさえも唖然とした。
「もう言い逃れできないぞ。関係者は外に来てください。これから、このスマートフォンで、サドルの裏のスマートフォンに電話をかけたいと思います。」
俺は着メロをベートーヴェンの『運命』に設定している。
“これがお前たちの運命だ“。
罪を暴かれる絶望を感じながら、自らの運命に浸れ。
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