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裏門に設置したビデオカメラの映像には、車の出入りこそあったが、肝心の自転車盗難被害がなかった。俺の耳に届いてないだけの可能性は勿論あるので、先生にも聞きに行ったが、そのような話は今日はなかったという。俺は裏門にビデオカメラを設置したことにまで気づかれているのか?と恐怖に思い、体育教師に体育の日程を尋ねた。すると、今日は1時間目から5時間目まで体育の日程があった。これは間違いない。犯人は体育の日程を把握し、体育がない時間帯を狙って盗難を行っている。だから、犯人は今日自転車盗難をすることが出来なかったのだ。ここからは犯人を特定するために、今朝、樋口たちを見て思いついた作戦を明日決行することにしよう。幸い明日は午前中は体育の日程が入っていない。犯人からしたら午前中は盗み放題だ。俺は波上に提案を持ちかけた。本来なら「名探偵部」の部員じゃない人に提案を持ちかけるべきなのだが、俺には部員以外の人脈など存在しない。「名探偵部」の中では1番付き合いも長く、1番信用できると俺なりに判断した結果だ。作戦はこうだ。あえて俺の姉のおさがり自転車を鍵をかけずに駐輪場の入口付近にとめて犯人に盗ませる。しかし、その自転車にはGPSを発するスマートフォンが付けられている。犯人はその事を知らずに自転車を盗んでしまい、居場所を特定されてしまう。素晴らしい作戦だ。俺以外にこの作戦を思いつける人物がこの世に何人いるだろうか。ただ、この作戦はスマホ2台必要であった。スマホを1台しか持っていない俺は協力者1人必要とし、その協力者に俺は波上を選んだというわけだ。しかし、お互いの位置情報を共有することになるため、波上と言えどもしかしたら嫌がられるかもしれない。波上にこの作戦を説明すると二つ返事でスマートフォンで位置情報を共有することをOKした。お互いのスマートフォンの位置情報を共有し、作戦立案者の俺がスマートフォンを自転車に貼り付けることにした。流石に俺に付き合わされているだけの波上が、自分のスマートフォンを危険に晒すのは可哀想だ。これで犯人が姉のおさがり自転車を盗んだとき、犯人の特定が可能になる。万が一盗まれなくても、その時は裏門に設置されたビデオカメラがその姿を捉える。本当は裏門のビデオカメラだけでも良いのだが、この作戦を思いついた時から犯人特定する快感を得たいという気持ちを抑えられなくなっていた。作戦は明日決行だ。全ては明日で決着がつく。いや、タイムリミットが明日だと言ったほうがいいかもしれない。

心配なのは犯人がもう、自転車を盗むこと自体を辞める可能性があるということだ。

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