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米道のバイトしているところは主に中華料理を扱った「中甘飯」という名前の飲食店出会った。名前に「甘」の文字が入っているのは、デザートの種類も豊富で甘いものがズラリとメニューに並んでいるからである。デザート目的で来る女子高生も少なくない。ラーメンとか餃子とかの臭いの中でデザート食べに来たいか?と、個人的な疑問が存在するが、現実として需要があるため俺が少数派なのだろう。

俺たちは4人席に案内され、坂火と俺は向かいあって座り、波上は俺の右隣に座った。

メニューを見ながら何にするか軽い雑談を行う。

「私、普通にデザートでいいな〜。」

坂火はそう言いながらデザートのページを広げるので、波上と俺も同じページを見るしかなかった。

「坂火も甘いもの好きとか可愛いところあるんだな。」

と軽口を叩いたら無言でギロッと睨まれ、波上に話を振った。

「マリエ、甘いものとか好きー?」

「うん。甘いもの好き!好き!」

確実に俺にアピールしてるな。これは自意識過剰か?

「ほうほう。生クリームとかチョコとか何が好きとかある?」

「うーん…。チョコは好き!」

チョコが好き、と。でかしたぞ坂火。

そんなこんなで、今回の企画の立案者がご登場なさる。

「へい、らっしゃい!」

「おー!英介、似合ってるねえ!」

白いハチマチを巻いて「中甘飯」とデカデカと書かれた真っ赤なエプロンをつけた米道がそこにはいた。

軽く目配せする。


「ご注文は!」

「じゃあ、このイチゴパフェ3つで!」

「はいよ!」

「えっ?」

坂火の強引な注文に波上も驚きを見せる。

「えっ、ごめん。イチゴパフェ嫌だった?」

「あ、いや、好きだけど…。」


さっきのチョコ好きのくだりはなんだったのか、波上でなくても疑問が生まれるだろう。


 事件の話など、たわいもない雑談をしながら数分が経過した。

厨房から甘い香りと共に米道が姿を現した。

「へい!おまちどう!」

いや、その掛け声で届いてくるのイチゴパフェ3つなの不自然すぎるだろ。

流石の俺もツッコミを入れざるを得ない。

「これ俺が作ったんだぜ?」

と米道はヘヘッと笑って厨房へとそそくさと戻っていった。米道なりの照れ隠しなのか?

坂火は中華料理屋から出てきたとは思えない本格パフェを角度を試行錯誤しながら何枚も写真を撮っていた。一方の俺と波上は食べる前に写真を撮るなんて文化とは疎遠なため、黙々と食べ始めた。


 個人的には甘すぎて1口目が味のピークだった。一体厨房のどこでこんな甘いものが誕生するのか、と厨房をそっと見てみたら店長らしき人物と目があってドキっとした。波上と坂火にはとても好評なようで終始美味しい美味しいと頬を弛めていた。

ここらで軽くジャブでも打ってみるか。

「坂火って両親仕事何してるの?」

「え?なに急に。普通に会社員だけど。」

「昼は家いる?」

「話聞いてた?会社員だから働いてるよ。」

波上は心配そうにこちらを見ている。

だが、ここで引いては進展はない。

「兄とか姉とかいる?」

「いや、いないけど?」

坂火ではないのか。嘘つかれてる可能性もゼロではないが。

「米道の両親は?」

「知らないよ。」

「兄弟は?」

「なんか弟いるって聞いたことあったかも。」

坂火はイチゴにフォークを刺しながら適当に返事していた。


「もう、やめようよ。」

波上が声を振り絞るように静かにそう言った。波上の発言が犯人探しを辞めようということは、俺にはすぐにわかったが、坂火には分かる訳もなく困惑の表情を浮かべる。確かに身内から犯人探しするのは苦行かもしれない。しかし、これから先も「名探偵部」として活動していく上で犯人は特定しなければならない。


「あれ?探偵さんじゃん?波上さんも。あと、えーと…」

急に背後から肩をポンポンっと叩かれた。驚いたが、坂火の方からは近づいてきていたのが見えていたらしく、冷静だった。

「坂火です。」

坂火は呆れながら声のする方に答えた。

振り返ると、そこにいたのは白いハチマキを巻いて赤色のエプロンと米道と同じ服装なのに何故か大人びたお洒落な着こなしに見えてしまう品格ある我が部が誇る幽霊さんだった。


「お久しぶりです。長岳先輩。」

「久しぶり。探偵さん。」

ニコッと笑った顔も実に品がある。

「あっ、そういえば探偵さんに相談したいことあったんだ。」

「なんですか?」

「実は今日、自転車なくしちゃったの。」

「えっ!?」

俺も坂火も波上も驚いた。

「鍵はかけてましたか?」

「それがね、かけてないのよ。」


鍵がかかってない自転車は2台目か。鍵の有無はもはや関係ないのか?


「なくなったのは今日ですか?」

「そうそう。それでバイト遅刻してさ〜、店長今日機嫌悪いから気をつけてね〜。」

店長というのはさっき厨房で目があった人だろうか。

「あ、長岳先輩、ひとつ聞きたいことが。」

波上は挙手していた。

「はい、波上さん!」

教師が生徒に当てるノリで長岳先輩は波上を指差した。

「一昨日って米道くん、バイト来てましたか?」

「来てたよ。17時から20時まで。」

「ありがとうございます。」

波上は大袈裟なくらい深々と頭を下げた。波上は一昨日の米道のアリバイを確認している。まだ、疑ってるのか。

「長岳先輩、何してんすか。店長怒ってますよ!」

米道が慌てながら長岳先輩も呼びに来た。バイト中に客と談笑など基本的には御法度だろう。しかも今日この人は遅刻してきているのだ。

「じゃ、またね。」

ニコッと笑って品がある歩き方で厨房へと入っていった。また会えるかどうかはあなたが部活に来るかどうか次第です。そう思いながら厨房の中に消えていく長岳先輩を目で追った。


ふとここで、波上のさっきの言動を思い返す。波上はさっき兄、姉のくだりで口ごもったよな。波上って兄弟とかいたっけ?



あっ、



俺は波上が何を考えてるか分かった気がした。


俺、姉ちゃんいたわ。



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