第3章 真相

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GPSは午前中駐輪場から1度も動くことはなかった。スマートフォンの仕掛けに気づいて姉のおさがり自転車を盗むことを辞めて別の自転車を盗んだのだろうか。それならまだ、裏門のビデオカメラで犯人の車を特定出来るからいい。最悪のケースは自転車泥棒は既に5台の自転車を盗んでいるため、もう盗む必要がなくなったのかもしれないということだ。

1日の日程が終了し、俺は真っ先に裏門のビデオカメラを確認しに行った。

ビデオカメラには何の破損もなく、その場でカメラの映像を確かめる。今日は午前の授業中という幅広い時間を確認しなきゃならず、早送りでも時間がかかりそうであった。一旦作業をやめて部室でやろうかとも考えたが、波上が来る可能性があるので辞めておいた。それよりも波上にスマホを返さなければならないので、波上に会いにいった。

波上はまだ教室で自分の席に座っていた。他クラスに入っていくのは少し勇気がいるが、残ってる人数も多くないので、この際関係ない。


「これ、ありがとう。動きなかったわ。」

「それは残念。違う自転車を盗んだのかな?それとも盗むの辞めたのかな?」

「どうだろうな〜。」


犯人の目星はついていただけに確証を得ることが出来ず残念だった。


「え?探偵さん。動いてるよ?」

え?

波上はスマートフォンの画面をこちらに向けてくる。GPSは駐輪場とは違う場所に位置していた。もう移動は終わっているようでその場所に停止していた。最後にGPSの位置を確認したのは放課後になってすぐなので、そこから移動があったことになる。つまり、俺が裏門でビデオカメラをチェックしていた時から、波上の教室に到着するまでの間に、犯人は自転車を盗んで移動していたということだ。


「探偵さん…、ここって。」

波上はGPSが位置している場所を知っていた。俺も知っている場所だ。そしてその場所は、俺の推理通りの場所だった。だから俺は驚くことはない。だが、1つ腑に落ちないことがある。

俺の推理だと午前中に動くはずだったということだ。

午前中ではなく、放課後に動いたという事実は、“「名探偵部」が事件に絡んでる明確な証拠“になりそうで、俺は少し辛かった。


今すぐこの場所に向かおう。蹴りをつける時だ。

「波上、スマートフォン借りるぞ。」

「うん。良いよ。」

「あ、やっぱりスマートフォン返さなきゃ行けないから波上も一緒に来いよ。」

「私はいいや。私、ここで推理小説読んどくから、終わったら返しにきてほしいな。」

え?推理ショー見せたかったのに。あと、波上はあまり学校で1人にしたくない。しかし、あまり渋ると波上に勘付かれる可能性が高まる。

「わかった。じゃあなるべく早く帰ってくるからここにいてくれよ。スマートフォンないから連絡取れないし。」

「うん。」

その時の波上の声は、中学時代にも聞いたことがないくらい低くて冷たかった。

波上も不満が溜まってきている。まあ、我慢してくれ。今日で全て終わるからさ。



俺は目的地へと走り出した。


目的地は勿論、GPSが位置する場所…

「中甘店」である。



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