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「まあ、という訳で今日出来ることは特にないし、解散しますか。」
俺が解散を告げると、米道が「ちょっと待ってちょっと待って。」と止めた。
「今から俺のバイト先来ない?久々に会ったんだしなんか食べに行こうよ。」
米道のバイト先は飲食店だったな。彼の狙いは読めていたので俺はすんなりOKサインを送った。坂火も「英介のバイト先行ってみたかったんだよね!」とテンション高めに了承した。
波上は…
「ごめん、私は辞めとく。みんなで楽しんで来て!」
精一杯笑っていたが相変わらずの引き攣っている。
米道は困っているのが一目で見て取れた。波上が来ないと意味がないのだ。
「どしたー?マリエ。具合でも悪い?」
「いや、そんなんじゃないけど…」
まずい、居咲先輩と波上が同時に黙って生まれたついさっきのきまづい空気が再び充満しつつある。誰か!この空気を突破してくれ!
「まあ、また後日にしよっか!みんな明日はどう?俺明日はバイトだから一緒に食えないけどその代わり俺の料理が食えるぞ!」
またしても突破したのは米道だった。
「明日、私行ける!マリエ、明日なら良い?」
「え、じゃあ、うん。」
かなり渋々感があったが流石坂火。半ば強引だが、波上の了承を得ることに成功した。だがしかし、波上は何をこんなに渋っているんだ?高校2年になって波上はまた、大きく変わってきたような気がする。
まあ、それよりも
「俺にも聞けよ。坂火。」
「え?探偵さんって予定あることあるの?まああるなら無理しなくていいよ!」
坂火は演技が上手い。だから冗談なのか嫌味なのか本当に分からない時がある。怖い。
玄関から出ると正面は校庭が広がっている。我が校のイベントで校内ランニング大会というものがあり、最近の体育は全て校庭での事前練習というような形になっている。今は運動部で賑わっている。坂火は明日体育だと言っていたっけな。
玄関から左に折れて真っ直ぐ進むと正門である。正門の手前で右に折れると駐輪場があり、左に折れると職員駐車場がある。駐輪場に入ってすぐのところ、ここに居咲先輩は自転車を停めた。
ん?待てよ。
「探偵さん、私先駅言ってるね。」
波上は俺たちより早く駐輪場に入って、グルッと一周だけして帰ってきた。
「ん、ああ。」
波上の様子が不安で話したさはあったが電車は一緒だし後で話せばいいか。
波上以外は全員自転車持ちなので坂火米道と一緒に駐輪場へ入る。そしてまた、先程の思考に頭を戻す。
校庭から駐輪場って見えないか?
てことはだ。
「探偵さん。」
「ん、なんだ。」
今度は坂火に思考を遮られた。
「なんかあったの?マリエと。」
坂火に喧嘩のことを言っていない。米道も知らなかったようだからマリエは誰にも言っていないのかもしれない。
「まあ、別に?波上だって色々あるんだろ。」
「ふーん。マリエって昨年は探偵さんにメロメロ〜って感じだったのに最近そういうのなくない?」
「メロメロって感じだったことは1度もない。波上が物理的に距離が近いだけだ。」
「まあ何があったか知らないけど、マリエ泣かせる様なことあったら、アンタを泣かすよ?」
いや、だから怖いって。ギロッと睨まれた後、坂火はすぐ笑いだした。
「あはははは、ビビりすぎでしょ。」
もう既に泣きそうになってた俺、相当滑稽だったに違いない。睨んでた方が演技か、笑ってる方が演技か、はたまたどちらも演技ではないのか。
「まあ、明日はマリエちゃん来てくれるって決まったし、みんなも協力頼むよ。」
米道はそう言ってその場を締めた。任せとけって。
ところで…俺自転車はどこだ?
今朝、朝早くに来て止めた場所に俺の自転車はなかった。
これは挑戦状に違いない。学校一の名探偵、“善意の名探偵“の“新品の自転車“を盗むとは…。
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