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居咲先輩は何か分かったら連絡してくれ、と連絡先を交換し、部室から去った。訝しげに波上がこちらを見ていた。
「てか、無理じゃね?犯人見つけるとか?」
坂火の言う通りだ。現状情報が無さすぎて犯人を見つけることは不可能だ。だが、俺は既に直感で犯人に目星を付けていた。
「犯人が盗んだ自転車に乗ってもう1回登校してくる、なんてことあったら分かりそうだけどな。」
米道はそう返す。
「俺の直感なんだが、1年の樋口じゃないか?不良なんだろ?」
居咲先輩が遅刻ギリギリできたのに盗まれたということはそれ以前に学校に来ていた人は考えにくい。なぜなら下校時は校門付近に人が集結し、当然駐輪場も人がいる。そんな中で自転車盗みなんてしたら少なからず目撃者が出るだろう。そうなると登校時に盗んだ説が浮上する。居咲先輩は遅刻ギリギリに来ているため、遅刻した生徒しか登校時の犯行は厳しい。ならば、今日遅刻したという情報が既に出ている樋口、こいつは犯人候補だ。真の名探偵というものは名前だけで犯人が分かるようなもんさ。
「樋口かー、有り得るな。アイツ自転車持ってないから遅刻してたとかじゃない?それで自転車欲しくなったとか。」
坂火の推理が合ってるのならば話は簡単だ。明日居咲先輩と駐輪場に張り込んで樋口の自転車が居咲先輩のものかどうかチェックしてもらえば良い。居咲先輩と同様の自転車が多いとはいえ、2年も乗ってるんだ、何となく見分けぐらい付くはずだ。
「あんまり推測で犯人みたいに言うのは可哀想じゃないか?」
米道は良い奴。俺が樋口を犯人で見ているのは、樋口が犯人でも犯人でなくても情報が増えるからだ。そこは説明しておく必要がありそうだ。
「まあそれもそうだな。だが、樋口が犯人なら“乗るため“に自転車を盗んでるだろうから、明日自転車に乗ってくるだろうし、少しは情報が増える。それに樋口が犯人じゃなかったらそれはそれで情報が増える。」
「え?樋口が犯人じゃないなら犯人の対象が樋口以外の人間、に1人省かれるだけでしょ?」
坂火がそう言う。
「いや、盗まれた時間帯は居咲先輩が登校してから下校時までの間。居咲先輩は部活がなくて真っ直ぐ駐輪場まで行ったらしいから下校時に盗まれたとは考えづらい。となると、登校時が怪しくなってくる。樋口は遅刻しているため、居咲先輩の自転車を外に盗み出しどこかに駐輪し、その後もう一度登校するということが可能である。一方で樋口が犯人じゃない場合、居咲先輩は遅刻ギリギリで登校しているかつ、堀口は遅刻しているが犯人じゃない。つまり、居咲先輩が登校した直後に自転車を盗んだのなら樋口が犯人を目撃している可能性が高い。しかし、これはあくまで生徒が犯人の場合だ。樋口が犯人じゃなかった場合は十中八九犯人は部外者だ。部外者が我々生徒が授業をしている時間帯に自転車を盗んでいることが考えられる。その時間帯、生徒に犯行は不可能だからな。」
「樋口が犯人じゃなかったら、生徒に盗む時間はないってことか。でも部外者は部外者で特定するの無理じゃない?」
「坂火、その通りだ。だから俺は樋口が犯人であると予想した。いや、樋口が犯人であって欲しいと思っている。もしくは樋口が犯人を目撃していてくれたらそれはそれで事件解決だから助かる。」
「探偵さん、明日は駐輪場で樋口くんを待機するつもり?」
長らく黙っていた波上が口を開いた。その後小声で「居咲先輩も一緒に?」とボソッと呟いた。
「そのつもりだ。不満なら一緒にどうだ?」
波上は無言で首を振った。
おいおい、居咲先輩とはさっき会ったばっかりだぞ。
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