5

 「犯人はあなただ!!」


俺は犯人を指差した。しかし、その指は人差し指でも中指でもなく、親指だった。


俺は俺を指差していた。


全員が驚きの表情を見せていたが、米道は「犯人はあなただ!」と言いながら自分を指差す俺に「ブッ」と吹き出した。波上がとびきり驚いた様子で食いつくように発言した。

「え?どういうこと?」


「電気を消し忘れていたのさ。」


「はい?」


坂火は何言ってんだ?って目でコチラを見てくる?


「あのねー、探偵さん。マリエは“電気がついた“瞬間を見てるのよ?つまり、消し忘れでは成り立たないのよ。」


波上は言いたいことを坂火が言ってくれた、とうん、うん、と頷いた。


「米道、なんで机と椅子がずれてるか本当に分からないか?バイト先で昨日なんかなかったか?」


米道は少し考えた後、「ああ!」と声を上げた。


「地震だ。」


そうだ。おそらく波上はこの事を知らないのだ。昨日は感情的になりすぎて気づかなかったのだ。昨日は怒り慣れてなくて、足元がふらついて脳みそがクラクラ揺れたのかと思っていたが、実際に揺れていたのだ。俺はそれをニュースで見て初めて知った。


「え?地震なんか関係ある?」

坂火が聞いてくる。

「地震で起こることって揺れること以外にも何かないか?」

坂火はピンと来てないようだったが、米道は理解したようだ。

「停電だ!」

「その通り。俺は電気を消し忘れてしまい、電気をつけっぱなしにして鍵をかけて外に出た。上の窓の鍵は結論から言うと閉まってたんだな。しかし、俺が外に出るか否かくらいのタイミングで停電が発生した。」

「マリエちゃんが見たのはその停電が復旧した瞬間ってことか!!」

米道はスッキリした〜!と言いながら狭い部屋を走り回った。本当にお調子者だ。

坂火も理解出来たようで、「え〜、探偵さんのこと初めて尊敬したかも」と拍手した。一言余計である。


「報酬は要りません。善意でやっておりますので。」


波上に極上の決め台詞を吐いたところでこの事件は終了だ。

しかし、波上は不満そうだった。

おかしいな。完璧な推理のはずだぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る