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「いや、でも待って。」
波上が何かに気づいたようだ。
「隣の部屋の図書室に、本棚の高いところの本を取るための脚立があるよね?あれを使えば米道くんみたいな運動神経がなくても上の窓に入れるんじゃない?」
「あーたしかにいけるかも。」
坂火が同意する。
「試してみる?」
そう言って、米道は隣の図書室へと走っていった。
米道が持ってきた脚立をドアの前に立て、坂火が挑戦しようとする。しかし、、
「ちょ、、香織!スカート!」
惜しい!ただでさえ坂火は他の生徒より短いのだ。チャンスだった。珍しく坂火は顔赤くして恥ずかしがった。出来れば「何見てんのよ!」的なお決まりのフレーズも欲しかったところだ。
結局俺がその実験をすることになった。運動神経は私以下なんだから探偵さんがやっても一緒でしょ?と言われた。坂火は元運動部のため何も否定できなかった自分が悲しい。数多の推理小説がこの世には存在するわけだが、その中には名探偵の圧倒的な運動神経で犯人の逃亡を阻止するシーンがある作品もある。日常で運動神経を問われる場面に出くわした時、俺にはその名探偵のムーブをすることはできないのだ、と名探偵として格が1つ落ちた気分になって憂鬱だ。
結果難なく上の窓に到達した。降りるのは大分怖かったけど。
「でもこれって、犯人の対象を広くしただけで解決に遠のいただけだよね?」
坂火の言う通りである。
米道レベルの運動神経を持つもの、と絞っていたところ、俺みたいな本読んでるだけのヒョロガリでも上の窓から侵入することが可能になってしまったのだ。
だが、それは部室内に脚立があった場合だ。
「それは違うよ、香織。」
「え?」
波上も同じことを考えていたようだ。
「脚立は図書室にあったよね。てことは、上の窓に侵入するにはやっぱり米道くんくらいの運動神経が必要になるよ。」
「え?脚立を使えば良くない?」
「脚立がないと上の窓に登れない人って、部室から外に出る時も脚立を使うよね。」
「あ、部室の中に脚立がないとおかしいのか!」
「そう、だから犯人は机か何かを代用したのかと思ったけど…。」
米道が指摘する。
「来た時、机とか椅子が少しズレてたけどこれって昨日から?」
「まあ、帰る時はこれくらいだったかも、、ん?なんでズレたんだっけ。」
やはり波上は気づいてないんだ。
昨日の喧嘩中に起こった“ある現象“に。
「ふむ。全て理解した。」
俺は腕を組み、左手の人差し指で下唇にそっと触れた。
正直言うと、最初から分かっていた。
しかし、波上にここでの思考や推理をさせることで、俺の推理により説得力を持たせる狙いがあってここまで引き伸ばした。
「おー!」
坂火と米道が拍手した。劇でも使ったセリフである。
波上はまだ分かってない自分に納得がいっていないようで首を傾げながらコチラを見ている。
「そう…犯人はこの中にいる!!」
俺はそう断言した。そう、密室を保つ理由から推測するに犯人は先生に怒られるのを恐れた「名探偵部」の部員の他にいないのである。
「ええっ!?」
坂火と米道は大袈裟すぎてコントのようであった。波上は表情を変えない。
「犯人は…」
右にいる波上、前にいる坂火、その隣にいる米道、全員の顔を見渡した。
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