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 放課後、久しぶりに全員集まったことに歓喜する面々。正確には長岳先輩が来ていないから全員ではないのだが…


「マリエ久しぶり〜」

「香織〜元気だった?昨日会いたかった!」

「ごめんごめん!昨日色々買い物しててさ〜」


波上と坂火が女子トークに花を咲かせているところだが、波上の「昨日会いたかった」というフレーズに昨日坂火が来ていればあんなことにはならなかった、という意味合いを含んでいると感じてしまうのは考えすぎだろうか。

坂火もまた、米道と同じように、運動部を辞めて「名探偵部」に入部してきた生徒である。今はどこかで演劇の練習をしているらしい。坂火は部活を辞めてから元々短かった髪を金色に染めて、黒髪ロングの波上の対をなす髪型をしている。生徒指導の先生に対して「地毛です」で突き通す強メンタルの持ち主である。明らかに入学当初の写真と髪の色が違うというのに…。学校で髪を染めている人間はほとんどおらず、彼女はよく悪目立ちしてしまうが、話してみると意外と良い奴である。入部当初は波上と気が合うとはとてもじゃないが思えなかったが今じゃ下の名前で呼び合うくらいには仲が良いようだ。波上が中学と変わったのも同性の友達が出来たことが大きいのではないかと勝手に解釈している。


「よし、みんな揃ったな。聞き込みから始めよう。もしかしたらちゃんとした謎解きはこれが初めてかもしれないな。」


俺がそう意気揚々と言う。


「聞き込みって先生に?」

坂火が心配そうに聞いてきた。なあに心配は要らねえよ。


「そうさ。もしかしたらただ先生が電気をつけただけかもしれないだろ?」


「だったらガッカリだねー」

波上はそんなことを言った。いや、ガッカリではないだろう。幽霊や不審者なんかよりよっぽど良い。波上の中ではもはや謎解きモードなのかもしれない。


「とりあえず和田先生だ。」

俺を先頭に4人は職員室の中へと進んだ。

和田先生はいつも通りのタプタプ腹で謎の清潔感があった。


「和田先生、お忙しいところすみません。鍵を借りに来ました」


「はいよ」


和田先生は相変わらず見向きもしなかった。


「和田先生、今日俺の他に写真部の部室の鍵借りに来た人っていますか?」

念の為である。


「いない。」


和田先生はぶっきらぼうにそう呟いた。

和田先生は相談事とかには向いていないが、良くも悪くも贔屓がない先生のため、この情報は信頼度が高い。


「先生は写真部の部室に今日か昨日入りましたか?」


「入ってない。」




次に聞き込みを行ったのは、最後に学校の戸締まりをしている数学担当の高橋先生だった。

高橋先生は和田先生と違って丁寧に親切に対応してくれた。


「20時には学校を閉めて、セキュリティシステムを作動するようにしてるだけだから、各部室が鍵かかってるとかはいちいち見てないわ。でもね、昨日、写真部の部室が遅くまで電気ついてたから早く帰らなきゃ締めちゃうわって注意しに行ったのわ。でも、私が来た時には写真部の電気は消えてたし、鍵もかかってたわ。」


語尾に大分癖があるな、と思いつつ、質問も入れる。

「それ、何時頃ですか?」


「18時50分頃かしら?」


「上の鍵は閉まってましたか?」


「上?」


「ええ。写真部の部室のドアに限らず、この学校のドアには小さいけどドアの上にも窓みたいなのがありますよね?」


「ああ、換気のためのやつですわ。あんな高いところ確認できないわ」


まあ、それは知っていた。

ドアの段階で背の高い米道ですら、屈まずに通れるのだ。ドアの時点で、高さ190センチ近くあると見て良い。そのさらに上にある窓を高橋先生が確認できるはずがない。だがしかし、仮に侵入することができるならあそこからだ。ドアと真反対の壁にも、もっと大きな窓がある。波上と2人で見たカーテンのある窓だ。しかし、俺はその窓はしっかりと施錠してきている。これは波上も確認しているはずだ。

「ドアの鍵は一つだけですか?」

「そうよ。」

「マスターキーみたいなものは?」

「ないわ。」

「鍵がかかってるのを最後に確認したのは19時付近ですか?」

「いいえ。あの後なんか電気がついたような気がしてもう1度確認しに行きましたわ。その時も鍵と電気はついてませんでしたわ。だから気のせいかと思いますわ。」

「それは何時ごろ?」

「19時10分頃かしら?」

なるほど。高橋先生が鍵を確認したのは2回。

そして2回とも鍵がかかっていた。


「部室の鍵を盗むなんてことは可能でしょうか?」

「それは無理だわ。学校を閉めるのは20時ですけど、職員室は19時には鍵をかけているわ。部室の鍵は全部あること確認して、昨日も閉めたわ。」


「なるほど、朝早く来て開けることは?」


「顧問の先生に許可を取れば出来るんじゃないかしら?」


聞き込みとしては十分だ。これで「名探偵部」全体の認識は、これから向かう写真部の部室は昨日俺が鍵をかけて退室した時と同じ状態のままであるということになった筈だ。


ああ、1番重要なことを聞き忘れていた。


「写真部の部室の電気って、部室内のスイッチの他にありますか?」

「ないわ。ドアあけてすぐの所にあるやつだけよ。」


ふむ、上の窓から棒のようなものを伸ばしてスイッチを押すことは出来るだろうか。そもそも、上の窓が開いてたらの話だが。


「お話ありがとうございました。」

俺たちは高橋先生に感謝と別れをつげ、写真部のケースから鍵を取り出すと、部室へと向かった。




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