第2章 事件

1

「おはよう、探偵さん。随分来るの遅かったじゃんか。」


始業のチャイムギリギリで席についた俺に話しかけて来たのは隣の席の米道英介だ。

米道は今年から同じクラスになった同じ「名探偵部」の一員である。もっとも、米道はバスケの練習がキツすぎるからという理由で一年の夏過ぎ頃にバスケ部を退部して「名探偵部」に入部してきたやつだ。動機としては不純である。米道は茶色がかった地毛とくっきりした二重の目が特徴的な見た目をしており、性格はお調子者というのが相応しい人間である。お調子者キャラを一箇所に集めらとするならば、その中に埋もれて個性を失うくらいには王道のお調子者である。それでも米道はなかなか憎めないやつで、クラスの皆んなに愛されている。無論、俺も米道は好きである。


「おはよう、米道。ちょっと色々あってな。」

「なんだなんだ?マリエちゃんと喧嘩でもして電車の時間帯ずらしたとかか?」


米道はいつもの調子で俺と波上の関係をおちょくってるだけなんだろうが、喧嘩したのを思い出して苦い顔をしてしまった。それに最近は毎日一緒に登下校しているわけではない。


「おいおい。マジで喧嘩したのかよ!探偵さんもマリエちゃんもキレてるとこ想像できね〜!」

「声が大きいぞ」


俺は米道に注意を促すと、米道は小声で「わりぃ」と言いながら両手を合わせて軽い反省の意を見せた。あまり波上と噂にされたくはないからな。波上の壊れた距離感のせいで、もうとっくに噂にはなっているだろうけどだ。


「ところで、そのマリエちゃんから聞いたんだけど、昨日写真部の部室が無人のはずなのに電気ついたってマジ?」


「おい!“名探偵部“な。俺は電気がついた瞬間は見てないんだが、電気がついてたのは本当だ。電気の件も含めて今日放課後部活どう?」


「わりーわりー、“名探偵部“ね。今日はバイトないから行けるわ。」


「じゃあ放課後職員室前集合で。坂火と波上にも連絡しとく。」


「え?部室集合じゃねえんだ?」


「密室には証人が不可欠だろうよ。」


俺は下唇を左手の人差し指で軽く撫でた。


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