第1章 善意の名探偵
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4月10日
新学期を迎え、高校2年生になった俺は第1の山場である学期初めの試験を終えた。今年の春休みは短期バイトと、この試験のための勉強で終えたと言っても過言ではない。猛勉強の甲斐があり、試験の手応え抜群だった。とりあえず一安心だ。今日の日程は試験のみであり、掃除が終わればもう放課後だ。後は帰宅するなり部活に行くなり生徒の自由だ。
放課後になると、新入生争奪戦が始まった。部活見学やら、ビラ配りやら、どこの部活も新入生を入部させようと活発に動き出している。ほんの1時間前まで試験で静まり返っていた場所と一緒とは思えないほどの熱気だ。
しかし、この俺が部長を務める「名探偵部」はというと、新入生獲得に一切動きを見せていない。勿論、新入生に入ってほしくないわけではない。ただ、この部活にかける熱意を持った人間は俺1人しかいないのである。約一名、ご注文俺自身に熱意を持っているものはいるが…。そしてその俺はというと、春休み期間中のバイトと勉強で、新入生勧誘の準備をする余裕などどこにもなかったのだ。当然、春休み期間中は部活活動は一度も行われていない。
俺は「名探偵部」と題したグループラインに手早く「本日開催。自由参加」と打ち込んで、職員室へと部室の鍵を借りに向かった。「名探偵部」は基本俺がやりたい時に部員をLINEで招集し、来れる人のみ来るというシステムである。
職員室に入り、「名探偵部」顧問を務める和田先生の元へと向かった。
タプタプに膨らんだ腹と、ハゲかかった頭、一昔前のガリ勉がつけていそうな丸メガネ。
春休み前から何も変わっていない和田先生その人だ。不潔そうな印象を抱くと思うが、そうでもなく、いつもシワの入っていないスーツを着こなし、机周りは綺麗に整頓されており、髭はいつ見ても丁寧に剃ってある。
「お久しぶりです。和田先生。部室の鍵を借りに来ました。」
和田先生はこちらを見ることもなく、机に向かったまま
「はいよ」
とだけ言った。
良くも悪くも生徒に対する態度は平等であり、特別贔屓する生徒も、特別叱る生徒もいない。要するに基本的に生徒に対して不干渉なのである。おそらく和田先生は生徒に興味がないんだろうと思う。部活にも参加した試しがない。まあ、俺の気分次第の不定期開催の時点でそれは責められないんだが。
部室の鍵は100円ショップで売ってるような小さな透明なケースに一本ずつ入っている。透明なケースには「野球部」「サッカー部」などの部活の名前が、黒の油性マジックでデカデカと書かれており、まとめて一箇所に置いてある。
俺は錚々たる部活の名前の中から、「写真部」と書かれたケースを手に取った。
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