第13話 やるべきこと
「おめぇらは、本当にバカだなぁ。」
俺の名は、バーナード・イーギル。剛剣のスキル持ち、大剣を操る冒険者だ。そして、カイン・イーギルの父親だ。そのイーギルと連れ3人が、休暇中の俺に相談を持ちかけてきた。前に少し話した、有用なスキルが得られなかったらどうするのか、的な話が現実になって、それでも4人で冒険者になりたいとなったらしい。んで、当の本人であるビューハルトの母親はそれに反対していて、説得を試みたけど失敗。困りかねて、俺に泣きついてきたらしい。
話の流れを聞いて、思わずストレートに言っちまったよ。
「バ、バカって…。」
「何度でも言ってやるよ。お前らは揃いも揃ってバカばっかだ。やりたいやりたいって言ってるだけで、誰1人真剣どうすればいいかってことに向き合ってねぇ。」
「そんなことありませんよ!どうして行こうかってことは、ちゃんと考えてます。でも、何をするにしても、まずはリーバスさんに許して貰わないとダメだと思って…。」
「はぁー。あのなぁ…じゃあよ、ビューハルト。お前妹いるよな?その妹がさ、ある日街の北にある湖を縦断しますって言いだしたらどうするよ。」
「え、いやそれはもちろんダメだって言います。リーンはそこまで泳ぎ得意じゃないですし。」
「そうだよな。じゃあ、そこでリーンちゃんがこういったらどうする?お友達3人がボートに乗って着いてきてくれるから安心だし大丈夫、最新鋭のボートだし、みんな知識はいっぱいあるからって言われたら?」
「いや、そういう問題じゃないですし…。」
「そんで、リーンちゃんがこういうんだよ。みんなで湖を縦断するのが小さい頃からの夢だったんだ。だから、絶対に泳ぎ切るから心配しないでって。そしたらお前言えんのか?頑張って泳いでこいよ!ってよ。」
「………。」
「お前らが言ってること、やってることはそういうことなんだよ。それで納得するやつなんざあるわけがなぁ。」
「…いや、俺たちだって、別にすぐに冒険に出ようとは思ってねぇよ。許可もらったら、ギルドの訓練場で、ある程度は訓練をして…。」
「はいはい。じゃあよ、ビューハルト、もう一度聞くぞ。リーンちゃんがこういってきたら、お前どうするよ?実は湖の縦断がしたい。具体的には今から半年後に。そのために今日から湖の足が届く浅瀬を毎日1刻泳ぐ。半月後からは1刻半、その1月後には2刻。最終的には3刻止まらずに泳げるようになるまで泳力を上げます。そこまで行ければ、縦断は可能だからです。サポートには友達に3人ついてもらいます。ボート2台で並走してもらって少しでも危険な時は、ボートに回収してもらいます。具体的には、20回腕を掻いたら、手を挙げるサインを送ります。そのサインが上がらなかったら、危険と判断して挑戦は中断します。具体的な引き上げ方法は、浮袋をつけたロープを用意して、友達も浮袋をつけた状態で、それを持って私のところまで来てもらいます。それを私の体に括り付けて、ロープを引いてもらいます。この救出訓練も泳ぐまでに最低100回はします。風の弱い、天気の変化があまりない季節の、その中でも特に天候が穏やかな日にやります。小さい頃から、私と友達の夢だったんです。なんとしても達成したいんです。応援してくれますか?って言われたらよ。」
「…それでも、反対はするかもしれません。」
「ふん、慎重だな。じゃあもう一つ足すか。小さい頃から、妹からことあるごとに、私はあの湖をいつか縦断してみたいんだって言われてて、それに向けての小さな努力を見続けてた上でならどうだ?」
「……応援、してしまうかもしれません。」
「ちったぁ分かったか、自分達の拙さがよ。それによ、カインは訓練するつもりだった、なんて言ってるけどよ。一体どんな訓練をするつもりなんだ?少しスキルの使い方を練習するのか?それを踏まえた連携でも試してみるのか、ビューハルトっていうとっておきの足手纏いをどうするんだよ。置物にでもしとくのか?その置物ですら戦いの場ではただ邪魔なだけだ。」
「親父ぃ!」
「うるせぇ、カイン、事実だ。事実から目を背けてもその先はない。背けた事実は、いつか最悪の形で目の前に突きつけられる。今と向き合うことから逃げるな。」
全員俯いて、言葉を失う。まったくこいつらは、本当にまだまだガキだな。
「あのなぁ、お前らはさぁ、ついこの間成人になったばっかりのガキなんだよ。なんで最初からもっと相談しないんだよ。なんで自分たちで全部できるって思い込むんだ。おい、カイン、お前の父親は誰だ、なんだ?」
「俺の親父は…バーナード…イーギル。」
「そうだ、俺はバーナード・イーギル、現役バリバリの冒険者!そして、カイン、お前の父親だ!お前たちは、まだまだガキなんだよ。だから頼っていい、父親を。惜しむことなく、頼れるものは頼れ、カイン。それもまたお前が持ち合わせたものなんだぞ!」
やっと、しょぼくれた4人が顔を上げた。そうだ。それでいい。
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