第12話 説得

私はスーベリア。今は冒険者になるために、説得活動に全力を尽くしてます。

魂の儀を終えた翌日。私たちは集合しました。まずは、謎スキルが発言したビューを説得する必要があったからです。


「とりあえず、僕の聖印のことは脇に置いといてもらってもいい?どうも複雑な事情で、父さんと母さんの子として育てられたみたいなんだ。でも、問題ない。僕にとっての父と母は、あの2人以外にいないから。」

ビューハルトの言葉から話し合いは始まりました。

「そうか…。確かに昔から不思議ではあったんだ。ビューの髪と目はだいぶ特徴的だからな。どちらかと言えば、神聖国の方に多いって言われてる黒髪と黒目だ。でも、お前が納得してる話なら、俺がそこに関していうことはない。だから、次の話だ。ビュー、昨日の儀式の後、俺たちはビュー抜きだけど話し合ったんだ。結論は、俺たちはやれる。ビューのスキルはよく分からないのが結論なんだろ?逆に言えばいつかどこかのタイミングで発動するかもしれない。もちろん、お前がいろんなことを考えて、悩んでるのは分かってる。でも、それでも俺たちは、お前と一緒に冒険者になりたい。」

カインが、私たちの結論をビューにぶつけます。それでも、多分ビューはイエスとは言ってくれないと思います。結論は分かってます。でも絶対に受け入れる気はありません。私はこの時に向けて何度も脳内シミュレーションを繰り返してきました。必ず、うん、と言わせちゃる!

ビューは、少しの時間をおいて言いました。

「わかった。僕は冒険者になる。」

「そうだよね。分かるよ。でもさ、私とか結構強力なスキル持ちになれたんだよ。盾の強度を一時的に上昇させたりもできるの。そういうのを駆使すればさ、きっと大丈夫だから。」

「うん、僕もそう思う。」

「カインとコラルのスキルもすごいよ。カインは短い距離なら、瞬きする間に移動できるんだって。コラルも風と水の魔法が使えるんだよ。ビューがピンチになったって、すぐ助けてくれる!」

「助けられてばっかりは、ちょっと情けないから嫌だけど、でも、足を引っ張らないように頑張るよ。」

あ、あれ、なんかちょっとだけ私とビュー会話が噛み合ってないような…それに…

「あ、あの、ごめんビュー、最初なんて言った?」

「僕は冒険者になるって言ったよ?みんなに迷惑かけるかもしれないけど、それでも僕は冒険者になるって決めたよ。」

「迷惑なんかじゃないよ!ビューがいないなんて考えられないんだからさ!決めてくれてありがう!」

コラルも激しく頷いている。

「しかし、ビュー、結構悩んでた風に見えたけど、意外とあっさり決めたられたんだな。俺たちはもう少し説得に時間がかかると思ってたよ。なんかあったのか?」

「あ、うん。なんかあったというか。僕には毎日家にいないタイプの仕事が向いてるなって思うようになったんだ。」

「?よく分からないけど、こうなったら次に説得しななきゃなのは、リーバスさんだね!」

「そうだな、壁は高いけど、全力で説得しようぜ!」

コラルもグッと拳を握りしめている。必ず私たちでリーバスさんを説得してみせるよ!



「なるほど、あなた方の天秤は、お兄ちゃんが危険に目に遭うかもしれないというリスクと、4人で冒険者になるという夢を載せたとき、夢の方に傾くんですね。しんじられません、ありえません。その天秤壊れてるから今すぐ捨てた方がいいとリーンは思います。まぁ、天秤は心の中にあるものですし、中々捨てるのは難しいと思いますから、今すぐ冒険者として遠い遠いところに旅立てばいいんじゃないですかね。そうすれば物理的にその天秤にお兄ちゃんが乗ることもなくなりますから。」

あ、あれ?なんか、リーバスさんより高い壁があるんだけど。あれ?そもそも今日って学校ある日だよね。なんでリーンちゃんいるんだろう。そもそも、リーンちゃん膝の上に座ってビューに抱きついてるし、2人が仲良しなのは知ってるけど、ここまで距離感バグってたっけ?リーンちゃんもう11歳だよね?あと、そんなに私とコラルを睨まないで!コラルが怯えてるよ!

「リーン、心配してくれてありがとう。でも、その夢は、3人じゃなくて4人の夢なんだ。だから、僕の天秤も同じように傾いてるんだよ。あと、リーンはそろそろ学校へ行こうか。」

「でも、命あってこそです!お兄ちゃんにもしものことがあったら…リーンは世界を滅ぼしてしまいそうです!」

「危険がないとは言えない。でも、リスクがあっても僕は冒険者になるべきだと、今現在進行中ですごく思ってる。リーンは僕の夢を応援してはくれないか?」

「そ、そう言われると…。確かにこれは、リーンのわがままです。愛するお兄ちゃんの夢を応援しないのでは、大いに矛盾してしまいます。分かりました、これ以上は何も言いません。でも、今はこうしてお兄ちゃんを抱きしめることをお許しください!」

「リーン、学校に行きなさい。」

底冷えするような、リーバスさんの声が響きました。

リーンちゃんは、「ピャー!」と言いながら、電光石火で家を飛び出して行きました。去り際に、私とコラルをひと睨みするのは忘れずに。ひぃ。昔はすごい仲良しだったのにぃー!

こうして高そうに見えた第一の壁は、あっさりと崩れたのでした。


「さて、あたしも概ねリーンと一緒の意見よ。リーンと違うのは、それがビューがずっと思い描き続けていた夢であっても、あたしは認めないってところだけ。」

私たちは、必死に説得を試みました。私とカインは情熱的に、ビューハルトは感情的に、コラルは身振り手振りで。

そして、しっかりと私たちの主張を聞き終えたリーバスさんは、冷めたお茶を一口飲んで、こう言いました。

「話にならない。ビューが冒険者になることは認めない。」

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