第9話 母の思い①

あたしの名前は、リーバス。リーバス・アバンティ。父の影響を受けて、そしてたまたま炎魔法のスキルを得たことで、冒険者になった。正直そこまで冒険者になることに強い思いがあったわけじゃなかったけど、なったことで得たものはたくさんあった。忘れられない景色。消えることのない熱い思い。そして、愛してやまなかった人。

ザックとの出会いは、あたしが18歳、ザックが21歳の時だった。当時、自分がいたパーティーのリーダーが死んでしまって、パーティーが解散となった。冒険者となった時から縁あってそのパーティーしか知らなかったあたしは、正直途方にくれた。そんなときに声をかけてくれたのが、ザックだった。

「や、やぁ、君、リーバスさんって言ったっけ?あ、私は決して不審者ではないよ?一端の冒険者さ!あの、なんかちょっと噂で聞いたんだけど、なんか君、あ、君ってひょっとすると失礼かな。リーバスさん、んごほっ。リーバスさんって、今訳あってパーティー解散したんだって?ところで、うちのパーティー魔法使いが長らくいなくてさ、ちょっと欲しいって思ってて。もしよかったらなんだけど、まぁ嫌なら断っていいんだけど、良かったらうちのパーティーに入ってみない?嫌なら全然いいから。ほんと断って!何にも他意はないし、純粋に、戦力的な意味合いで誘ってるだけなので、嫌なら断って。嫌?嫌かな?」

めちゃくちゃ不審だったし、凄い早口だし、その時のあたしの気持ちを正直に言うなら、なんなのこの人、なんだけど、でも魔法使い1人でできることはたかが知れてるし、どこにもコネもなかったあたしは、そこにすがるしかなかった。

後からほかのメンバーから聞いたんだけど、どうも冒険者ギルドとかですれ違うあたしにザックが一目惚れしたらしい。そして、たまたまリーダーがそんなことになって、あたしに声をかけたんだって。

あるとき酒に酔った周りに囃し立てられて、思わずあたしが、

「そんな状況の女を誘い込むなんて悪いやつだな。それってつけ込むってやつじゃない?」

って冗談で言ったら、

「確かにそのとおりだ。ほかに選択肢がない人に、それらしいことを言って、餌をぶら下げて、自分の都合よくコントロールするなんて、人間のクズだ。すまない、分かっててもあの時自分を抑えることができなかった。俺は最低だ。気持ちが抑えることができなかった。弁明するつもりもない。それくらいリーバルが好きだったんだ。醜い人の感情を見せつけたことを恥ずかしく思う。今すぐ死にたいが、君を守るために死ぬことはできない。生きることを許してくれ。あ、すまん、もう今日でパーティーを解散しよう。解散して、自由になった状態で俺はあらためて君にプロポーズをする。」

もちろんパーティーは解散しなかったけど、あたしは思ったよ。こんなにあたしを好きになってくれる人なんて、これから先で会うことはないだろうなって。だからあたしは言ったよ。

「ちょ、ちょっと考えさせてもらってもいい?」ってね。いや、ちょっと重くない?愛が。

でも本当に正直に言うなら、この時には私はもうザックにベタ惚れだよ。

あたしが魔法を打ち尽くして、これはもうダメかもって時に、ザックは気がついたら目の前にいた。この局面は、さすがに様子見じゃないかと言う時に、ザックは状況を切り開いた。これだけ惚れられて、その上中身が男前なんだから、それに惚れない女なんてなかなかいないよ。


だから、そのザックが帰ってこなかったことを受け入れるには時間がかかった。魔獣討伐依頼を受けてから一月。消息不明という報を聞いたとき、あたしは無意識に杖を握って走り出しそうになった。正直、ビューとリーンがいなければと思ったこともある。

でもあたしは、あたしがやるべきことを考えて冒険者を降りた。そのことを投げ出すことは、ザックを裏切ることだと思った。そうしているうちに時間が経ち、時間が少しづつ心の傷に幕を作ってくれた。


そして、時間は過ぎていく。


今日は息子が魂の儀に臨んだ日だ。あたしはリーンが熱を出したから、その場にいることはできなかった。

でも、先にいろいろ終えたカインくんとスーベリアちゃんとコラルちゃんが家まで来てくれた。

いろいろ話してくれた。後は中々帰らない息子から話を聞くだけだ。

どんな結果でもいいと思う。

あたしは、いろんな思いが交差していろいろ考えたけど、ビューが辛い思いをするのだけは嫌だった。

そして、ビュー自身が傷つくことは許せなかった。

だけど、きちんと息子と話をしようと思う。息子が抱えている気持ちも、決して軽く小さなものではないはずだから。

でも、ビューを失うかもしれないことを許容できない。

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