第8話 儀式の後
神殿の一室。
テーブルに置かれた蝋燭だけが、薄暗く室内を照らしている。
室内には、椅子に腰掛ける神官と、その後ろに立つ神官。
椅子に腰掛けた神官は、何かに集中するように目を固く閉じ、その額には汗が滲んでいる。しばらくそうしたていた後に、1人呟き始める。
「こちらはカリナナです。現在魂の儀遂行中のところ、新たなスキルが発現しました。スキル名は最適化。発現者は隔離措置中。教皇の間に確認お願いします。」
そして、そう言った後再び口を噤み目を開き、少しの時間が流れ、やがて再び瞳を閉じる。
「カリナナです。はい、分かりました。」
瞳を開いた神官は、ふっと息をついた後、椅子から立ち上がり後ろに立つ男に正対した。
「神官長、終わりました。結論は違うとのことです。」
「うむ、分かった。ご苦労だった。しばしこの部屋で休んでおきなさい。」
「神官長。一つだけ質問してもよろしいでしょうか。」
「どうした?」
「過去の文献を見た記憶ですが、スキル発現時にあのような光が放たれた記述はありませんでした。あれは新しいスキルが発現した時特有のものなのですか?」
「うむ、私が知る範囲でも、そのような記述はなかったと記憶しとる。正直分からないとしか言えぬ。」
「分かりました。ありがとうございました。」
「半端な答えですまぬ。では、ゆっくり休め。」
神官長と呼ばれた男は、そう声をかけるとゆっくりと部屋を後にした。
________
僕の名前はビューハルト・アバンティ。ついさっき念願の魂の儀が終わったんだけど、よく分からないけど別室待機を命じられてしまった。
待機とは言ってたけど、この部屋に一つだけある扉の前には、どう見ても神様に祈るより、自分の力で物事を解決する方が得意そうな体つきをした神官が2人立っている。
これって軟禁されてるのかなぁ。そんなことを考えつつも、僕はほかにも考えなきゃいけない問題を2つほど抱えていた。
「すみません、この部屋に鏡ってありますか?」
僕は対面に腰掛けている女性神官に話しかけてみる。
「ん、鏡?多分あると思うんだけど…。」
その神官は、近くの棚の引き出しを探り、
「その、なんていうか、なかなか凄いよ。」
と言いながら僕に手鏡を手渡してくれた。僕は魂の儀のとき、熱を感じた顔の左側を確認する。
「うわぁ。」
なかなか派手だなー。僕の顔の左側には、額から顎まで、広い範囲に聖印が刻まれていた。こんなに大きい聖印は、僕は見たことがなかった。しかも、ご丁寧に僕の髪や、瞳の色に合わせた黒色の聖印なので、控えめに言って目立つ。密度は低めだからまだいいけど、これで密度も濃かったら、遠くから見たら顔の左側が真っ黒な人だよ。
「ありがとうございました。あの、質問しても大丈夫ですか?」
手鏡を返しつつ、女性神官に聞いてみたけど、
「ごめんね、不安なのは分かるんだけど、もう少しだけまってくれる?」
やんわりと、待てをされてしまった。こうなると僕にできることはないので、おとなしくしばらく待つことにした。
コンコン
しばらくすると、僕のいる部屋にノックの音が響いた。
「私だ。」
すると扉の前にいた神官2人が扉を開けるように横に移動して、その後外から鍵を開けて、儀式を取り仕切っていた神官の偉い人が入ってきた。そ、外鍵ならごつい神官さんいらなくないですか?
「サーシャ、結果は問題なしだ、後は頼む。ビューハルト・アバンティくん、驚かせてすまなかった。新しいスキルが発現すると、少しやらなければいけないことがあったんだ。もう問題は解決した。あとは、そこのサーシャという神官にしたがってくれ。ではサーシャ、よろしく頼む。」
「分かりました、神官長。」
そういうと、神官長さんは、ごつい神官2人と一緒に部屋から退室した。
「あらためて、魂の儀を無事に終えて、おめでとう。スキルの発現を祝福するわ。神に感謝を。」
「あ、ありがとうごさいます?なんですかね。」
「ええ、スキルは発現して、それが今までになかったものなんですから、おめでとう以外の言葉はないわ。」
「なるほど。ところで、僕のスキルってどんなスキルか分かるんですか?」
「神殿ではね、過去発現したスキルを全て把握してるわ。スキルって発動条件がいろいろ違ったらするの。常に発動しているやつだったり、言葉にすると発動するやつだったり。発現したスキルの発動方法とかを、通常魂の儀が終わった後、神官からレクチャーしてあげるの。」
「なるほど。ありがたいですね。」
「そうね。だから君のお友達も、今頃いろいろ教わってると思うわ。」
「僕みたいに新しいスキルを手に入れた場合はどうするんですか?」
「何せ、100年以上新しいスキルの発現なんてなかったから、マニュアルに従うしかないんだけど。」
「100年!そ、そんなにレアなことなんだ…。」
「そうよ。この世界のスキルの歴史は長いわ。歴史が長くなればなるほど、新しいスキルが発現する確率は下がっていったの。もう発現することはないんじゃないかって言われてたくらいだもの。」
「なるほど…。じゃあ、僕はどうすれば?」
「私はね、防御結界を張るスキルの保持者なの。安全を確保して、試して試して、試しまくるしかないでしょ?」
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