第2話 母と妹

「ただいま。」

「おかえり、ビュー遅かったね、また湖?」

「お兄ちゃん、おかえりなさい!」

帰宅した僕を迎えたのは、お母さんと妹。お母さんはリーバス・アバンディ。茶色い髪に茶色い瞳。僕に抱きついているのは、4つ下の妹リーン。明るい茶色の髪に、緑の瞳。髪はお父さんとお母さんが混ざったみたいな色で、瞳はお父さんと同じ色だ。この街では7歳から学校に通い始めるので、来年から同じ学校に通うことになる。

「違うよ、今日はスーベリアの家で試験勉強してたんだ。リーンは今日もいい子にしてたかい?」

「うん、今日もお母さんの機織りの手伝いした!ほめて、ほめて!」

「えらいぞ、リーン。」

リーンの頭を軽く撫でた後、僕は窓際に移動してもう一度帰宅の挨拶をする。

「ただいま、お父さん。」

そこには一枚の写真が飾ってある。写っているのは僕、お母さん、赤ちゃんのリーン、そして短く刈った金髪の精悍な男の人、僕のお父さんザック・アバンティだ。お父さんは、僕が6歳、リーンが2歳の頃、ちょっと遠いところの魔獣討伐に行ってから帰ってきていない。1年たち、2年たち、僕とお母さんは少しずつ今の状況を受け入れつつあるけど、リーンには、お父さんはちょっと遠くまで冒険に行ってるんだって話してある。

お母さんは僕を見ながらふっとため息をつく。

「ビューには町役場にでも勤めてもらいたいんだよなぁ、母としては。」

「何度も言ってるけど、僕はカインたちと冒険者になるかからさ。お母さんだって元冒険者なんだから、なりたいって気持ちは分かるでしょ?」

そう、お母さんも実は元冒険者で、僕を育てるのを機に辞めたって聞いてる。

「それを言うなら、今の状況で息子が冒険者になりたいって言って、いいねいいねって言えない母の気持ちも少しは分かるでしょうが…まぁまだ魂の儀も終わってないし、冒険者になれるかどうかも分からないから、今はどうこう言わないけどさ。」

「ジルさんに、僕はかなりの魔力を持ってるって言われたんだ。だから絶対魔法とかのスキルが出ると思うんだよね!」

「ああ、ほとりに住んでるお爺さんだっけ?元冒険者の。聖魔法持ちなのか…余計なことを。とは言え、もし戦闘系スキルじゃなかったらキッパリあきらめるんだよ!」

「絶対大丈夫!さ、リーンお腹すいたでしょ。お母さんご飯にしようよ!」

「うん、リーンお腹すいた!リーンもご飯の準備手伝う!」

「話終わってないのになぁ。ま、いいや、とりあえずご飯にしよっか。」

そうして、僕たちは夕ご飯の準備を始めた。


今日の夜ご飯は、うさぎ肉のくりーむ煮込み。家族がみんな好きなやつだ。

味付けはお母さんに任せてるけど、下準備は僕とリーンでやる。ご飯はみんなで作るが我が家の基本だ。

「魔獣のお肉っておいしいの?」

リーンが突然聞いてくる。

「いや、魔獣のお肉は食べられないんだ。魔獣は倒すと魔核って呼ばれてるものを落とすんだけど、体は無くなっちゃう。その魔核は魔力がこもっていて、僕らの生活のいろんなところに役立っているんだ。」

「ふーん。じゃあ魔獣もいた方がいいのかなぁ。」

「魔獣は人の敵だよ。常に僕たちの命を狙っている。魔獣が全ていなくなったら、きっと世の中はすごく平和になる。」

いつか、そんな日が来るんだろうか。そんな日が来たら、人の暮らしはどう変わるんだろう。僕は、ちょっと考えたけど、魔獣がいないということをうまく想像することができなかった。

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