第9話 結婚
「君の青春は随分と内向的だったな」
「そうだな。そのまま高校3年生。相変わらず学校には行かなかった。単位制にしてくれて、あと1教科を提出すれば卒業できたんやけど、出さずに終わったな」
「どうして出さなかったんだい?」
「ほとんど行かなかったからな。自分が卒業するに値しないなって感じたんだよね」
「そういうところは嫌いじゃないよ」
「素直にもらっとけばよかったのにね」
「高校が終わって、どうしたんだい?」
「まずは、大学検定をとった」
「証明したかったんだな」
「まぁ、ね。それから大学に通ったよ、1年だけ」
「どうしてやめたんだい?」
「働きながら通っていたから、仕事の方が楽しくなっちゃってね」
「君は決断が早いし、一人だな」
「うん。もっと相談してもよかったかな。今なら情報も多いから、違う判断したかもしれない。けれど」
「自分で決めたことやから後悔はない、んだな」
頷くと、空が明るくなってきた。青い世界がきて、やがて朝焼けがくる。
「それからは就職したのかい?」
「数年後にな」
「数年後?」
「遠距離恋愛になりまして」
「これはめでたい」
「今の嫁なんやけど、この頃に出逢いまして。まぁ、嫁んとこに引っ越して結婚したんやな。それから就職した」
「どれぐらい遠距離したんだい?」
「20歳のときから3年かな」
「成人してすぐに出会ったんだな」
「縁があるんやなぁ、と思った。3年の間は、互いの住まいを行き来したり、間で会ったりした。最後の一年は会わんとお金貯めて」
「青春しとるやん」
「そうだな。生きててよかったなって、思った。こんなにも幸せなことがあるんやなって。でも浮かれて、やはり好き勝手しててな」
「どうしたんだい?」
「些細な食い違いでも怒っちゃってさ。自分の感情が全部、出るようになって」
「あんなにも自分の気持ちを出さず、即行動していた君がかい?」
「うん。もう会わないって言われて、謝りに行った事もある」
「遠距離だったんじゃない?」
「今でもそうやけど、こんなにも好きになることはないから。信頼、依存、そして恐怖したんやな」
「恐怖か。なるほど、少しでもずれたら、いなくなってしまうと思ったんだろう」
「違うから好きになったのにね」
「それでよく結婚できたな」
「もう我慢できんと押しかけたんやな」
「即行動か」
「話し合いはしたけれど、一方的やった。ただ運良く就職もすぐできて、車の運転にも慣れた」
「順調じゃないか」
「それがダメやったな。会社に入って、ゲームやるようになって、まぁ、そちらに夢中になってな」
「奥さんは放ったらかしかい?」
「まったく嫁の気持ちをわかってなかったんだよな。自分は結婚できて就職もできて可愛い猫もいて、このまま人生が過ぎていくって思ってた。また目的をなくしたんだな」
「どうしようもない男だな」
「本当にな。9年して、子どもを授かった」
「おめでとう」
「毎日、お腹をさわって、健診についていって。とてもかわいかった。エコーを見るたびに、こっち向いてくれてさ」
キスティスは空を眺めた。青の世界が終わり、朝焼けが始まった。
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