第8話 青春

「父ができてから、学校に行かなくなった。その理由に心当たりはあるかい?」


「守るというのは一人で決めていたんだなって。そこから力が抜けて、任せるかなって思ったら、頼りにならなくて。いろんな感情がすっ飛ばして、どうしたらえぇんやろって思った。今までのなんもかんもがいやになった」


「指針が勝手になくなって、それどころか頼りにならない変なやつがきた。それで君は行き場をなくしたわけか」


「好き勝手にしているのは変わらんけどな」


「君のためにどう生きるかがわからなかったのだろう」


「あぁ、誰かのためにって決めたんは誰かじゃない、己自身だ。だから生き方がわからなくなったってだけやろ」


「すまない、失言だった。君の言う通りだ」


「いや、謝るまでもないよ。けれど、音楽や本とノート以外に何にもなかった。それ以外はどうしてえぇかわからなくて。それでも学校に行かないのは問題だから、いろいろ話もある」


「一人にしてくれ、とか言わなかったのか?」


「悪いことされてるわけやないから。話には応じた。やれる範囲はやった。けど、ほんまは一人になれたら、違ったんかもしれへんなぁ」


 宇宙ステーションが見えた。どれほど広い世界を知っているんだろう。


「君の13歳はそうして過ぎていったのか。最近のアニメではラブコメとして描かれる年頃だったが」


「好きでよくみているよ。見ていて癒される」


「妬んだりはしないのかい?」


「羨ましいよ。でも自分なりにその年代を過ごしたと思っているから、比べはしない」


「君の頑固さは筋金入りだな」


「頑固というよりは、しょうがないなって感じかなぁ」


「しょうがない?」


「自分なりに、その時できる範囲でやったんなら受け入れる。それ以外にないなって」


「いつ頃からそう思っている?」


「いつからかな。でも13歳の頃は納得がいかないから、学校に行かなくなって、本や音楽にノートへとのめり込んでいったんやろなぁ」


「誰かに求めなかったのかい? 怒りを親にぶつけるとか、わかってほしくて自分語りしちゃうとか。よくある思春期のやつだよ」


「誰にも言いたくなかった。テレビの音量が大きいと言ってみたり、かと思えば大きな音でCD流したりしたけれど。それぐらいか。わかってもらえるとは思わなかったんだよね」


「誰も知らない、君だけの気持ちがあったと」


「そうだね。うまく言えないのもあるし、恥ずかしい気持ちもあった。ただ聞かれたら答えてはいた。こんなことをしてこんなことがあったってね」


「家族との間でどんなことがあった?」


「ここから高校が終わるまでは、同じような日々だった。正確には覚えているけれど、いつかはわからないんだ」


「そんなものだろう、思い出なんて」


「そうだな。暴れて、外の車で眠った親父に手紙を書いたな」


「どんな風に?」


「家族を思うなら酒をやめて、平静で話してほしいって」


「勇気を出したな」


「けれど、そこは厨二でさ。三国志を読んでいて、諸葛孔明みたく君はって書いちゃって」


「やってしまったな」


「当時は敬う意味だけど、父の怒りに火を点けたんやなぁ」


「思いは届きそうだけども」


「それがさ、包丁2刀流で殺されそうになってさ」


「はっ?」


「壁に押さえつけられて、首元には包丁2本が間近。こりゃ、死ぬわって目を閉じたよ」


「でも生きてるな」


「うん、近所の人が助けに来てくれた。でも殺せたはずなんだよな、親父は」


「そこは君への愛情が多少はあったんだろうね。そもそも間違えてるけれど」


「そういうことにしておこうか。ともあれ、こんな感じだったよ」


「遊びに行った記憶はあるかい?」


「親父の故郷にいった。おじさんちにいったんやけど、4人家族でえぇ人やったなぁ」


「そういえばお母さん方の実家にはいったかい?」


「うん、何度もね。おばあちゃんに甘えて、たらふく食べたよ。小学校の時だったかな、お母さんが通信教育で夏季スクーリングにいってな。その時に預けられてた」


「君は都会育ちだったな。おばあちゃんちは田舎かい?」


「うん、夜になると静かでな。落ち着いたよ」


「君が今、住んでいるのも田舎だったな」


「縁があるんかね」

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