第7話 思春期によくある
「父がきたんだよ。家も安く入れる市営のマンションが見つかってな。そこで4人で暮らし始めた」
「いつのことだい?」
「中学2年生のとき、13歳だな」
「どんな人だったんだ?」
「大工で職人気質だった。普段は温厚なのに、酔うと暴れたり次の日、欠勤したりしていた。あと歌はうまかったな。スナックに連れていかれたことがあるよ」
「典型的な飲み屋ではいい男ってやつだな」
「会社に所属してないから、その日暮らしの収入だった。お母さんは不動産会社に転職して働いていた」
「君はどうしていた」
「学校に行くのをやめた。定期券で通学していたから、よく電車にのって、本を読んでいた」
「本は時間を潰せるからな」
「だめだけど区画外の終点まで乗ってって、反対車線に乗ってを繰り返していたよ」
「何の本を読んでいたんだ?」
「なんでもよかったんだ。学校の図書館の本棚の左上から読もうとして、それがたまたま吉川英治の新平家だった」
「また大作から始まったな。歴史の知識はあったのかい?」
「大河ドラマを1本観ただけだったな。その一冊から始まって、司馬遼太郎、山岡荘八など、図書館にあるのは読み尽くした」
「相当だね。歴史の何が面白かったんだい?」
「色んな人がでてくるところ、それぞれに人生があってさ。平家の盛衰なんて、まさに縮図だよね。そこから読めたのが大きかった」
「戦国時代って、官位やら新九郎みたいな通称やら多いから苦手だな」
「そこはすっとばしてたよ。秀吉など有名な武将は覚えたけれど」
「秀吉?」
「うん、木下藤吉郎、羽柴秀吉、豊臣秀吉など有名だけれど、播磨守とか多数もっているんだ」
「その辺は、流石にわかる」
「だろうな。けれど平家の人たちの官位は無理。清盛の太政大臣ぐらいしか覚えてない」
「それでも読めるものかい?」
「どう生きていくんかが楽しかったから。名前だけわかれば、官位はどうでもよかったなぁ」
「道理だ。さて家ではどうしてたんだい?」
「音楽を聴いていた。ずっと、ずっと。ある日、BS観てたらさ。外人のギタリストのライブがあってな。開演前の会場の雰囲気がすごくて、思わず録画したんや。ギター一本で始まったんやけど、しびれた。50ぐらいのおっさんがめっちゃかっこいい。英語なんてわからんのに、最後まで見終えた」
「本能が求めた経験だろうな」
「そうかもしれない。それから、その人の同世代やルーツのミュージシャンを聴いていって。並行してバンドがMCやってたラジオを聞いて、日本のバンドも増やしていって」
「どっぷりハマったわけだ。その習慣は続いているのかい?」
「10年ぐらい聞かない時期があったんやけど、この数年また聴いている。サブスクで新曲で出てくるやつは一回は聴いている」
「本はどうだい?」
「似た感じ。高校に上がってからは、歴史では中国の春秋、純文学も読んでいた。今は年に数冊ペースで読んでいて、子どもに関する本や文章の本などジャンルは少し変わったかもしれない」
「他に何かしていたものはあるかい?」
「ノートに書き殴ってた。絵も描いたりして。不思議なことに、本と音楽と同じタイミングで再開していて、手帳に描いたりしている」
「好きなものに出会ったわけだ」
「それがなくては生きていけない、依存しているよ」
「君の世界ができたわけだ」
夜は更けたのに、一向に眠気は来なかった。
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