第6話 受験
「長屋の頃の思い出はあるかな?」
「野良猫が近くにいて、余ったもんあげてた。近くにいくのが衛生的に怖くて、放り投げてあげたりしてたんやけど。妹の友達が近くにいて、よく遊ぶようになってたな。あとは受験勉強かな」
「中学受験か。県内?」
「県外。最終的に隣になったけど」
「塾に通ったのかい」
「同じ学校を目指すやつがいてね、一緒に通ったりサボったりしていたな」
「幼なじみ?」
「同じ学校だったけど、この時に初めて同じ時間を過ごしたんじゃないかなぁ。塾へ向かう途中に駄菓子屋さんがあって、そこで駄菓子を買ってはサボっていた」
「小学生の男の子らしいな。その子との時間は、君にとって世界が少し広がったのではないか?」
「どうかな。この頃はどんなやつと遊んだかよりも、何をして遊んだかしか覚えていない。友達の名前は覚えているけれど、どんなやつだったかは忘れているんだよ」
「楽しかったかい、友達との時間は?」
頷いた。
「綺麗だね」
キスティスの目線の先には星空が広がっていた。窓枠にはまる絵画のようだった。
「空はいい。朝も昼も夕方も夜も、いつみても美しい」
「君の空好きはいつからかな」
「いつからだろうな。割と夕焼けの記憶は保育園ぐらいからある。よく見ていたんだろうなぁ。今も見るし」
「仕事にすればよかったのに」
「仕事に目が向いたのは大人になってからだから」
「中学受験はうまくいったのかい?」
「志望校1本で合格。近くの中学はどこでも受かると言われて、講師にも名門校をいくつかオススメされた。そっち言っときゃよかったなって思うこともある。そもそも地元でよかったとさえ」
「友達はどうだった?」
「落ちて、地元の中学に。なんか手紙書くことになって、書いたな。何を書いたんだか覚えていないけれど」
「志望校は本意じゃなかったのかい?」
「母親の希望のところに決めたんだ。当時は、ぼくもいいと信じていた」
「がんばったな」
「ははっ、入学後には汚点となってしまったけどな」
「汚点?」
「今、思えばだね。学校の選択もだし、そこでやったことを考えると黒歴史と行った方がいいかもしれない」
「ずいぶんと卑下するじゃないか。君の努力が報われたというのに」
「中学に入学してからは外部生として話題になったんだ」
「外部?」
「小学校から大学までの一貫校だったんだよ。それで一学期の中間テストで成績がよかったらしくてな。違うクラブから男の子がきて、お前が噂の何々かときた」
「現実でもあるんだな」
「好きなアーティストを聞かれて、女性シンガーを答えた」
「今もそのアーティストを聞くのかい?」
「時々ね。当時はあらゆる媒体をチェックしていたけれど」
「華やかな学生生活が始まりそうじゃないか」
「剣道部に入ってさ、いきなり大会に出ろと言われたんだ」
「文部両道への道が見えるようだ」
「すっぽかしたんだ、練習にも二度と出なかった」
「剣道は向いてなかったのか?」
「大好きだった。道具を着た視界も、地道な坂ダッシュも、どれも爽快な気持ちが待っていた。今でもいつかは剣道やりたいって思っている」
「天職だったかもしれないな」
「かもな。けれど遠征費や竹刀などの購入をためらったんだ」
「お母さんに反対されたか?」
「今までずっと何も言わないでいる。苦労しているのを知っていたからな」
「君の拠り所は音楽だったわけか」
「そうだな。やがて依存するようになった」
「何があった?」
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