彼女の日記

雪野スオミ

彼女の日記

 夏休み明け、突然一人の先生が辞めた。理由は聞いていなかったが、クラスを任されていなかった私が引き継ぎとしてそのクラスの担任をすることになった。どうしたら他の先生は四十人もまとめられるのだろう。憂鬱だったが、教頭曰く、そのクラスは平和で、いじめは起きていないらしい。それを聞いて安心した。いじめはした人、された人、全ての人にとって不幸せなものだ。

 

 ……あれ? 前任の先生ったら。机の中に一人の生徒の日記が置きっぱなし。読んでも……いいかな? なんだかボロボロだけど。


『四月五日。今日から私も中学生。友達と遊ぶのも楽しみだけどやっぱり勉強も楽しみ。新しく買ってきた教科書やノート、とてもわくわくする』


『四月九日。今日は委員会決めがあってクラス委員に選ばれた。友達からの推薦だけど私に上手くやれるかな……?』


『四月二十一日。今日は授業で間違えてしまった。次は間違えないようにしっかりと復習する』


『五月十四日。やっと中間テストも終わって一安心。どれも自分の中ではよくできたかな』


『六月八日。今日は先生に褒められた。他の人も見習え、なんて言っていたけれど、私に見習うところなんて無いと思うけどな』


『七月十五日。今日から校外学習のグループワーク、本番までにしっかりと終わらせなくちゃ。班長なんだし』


『七月十七日。皆どうしてできないんだろう。あれくらい一日あればできるのにふざけたり遊んだり……』


『七月十八日。今日は班の人たちともめた。みんな協力してくれない。明日、先生に言ってやる』


『七月十九日。先生に言ったらクラス委員なんだからもめごとぐらい解決しろだって。もうクラス委員なんてしたくない』


『七月二十日。友達が私の悪口を言っていた。出来るからっていつも偉そうだって』


『七月二十一日。もうすぐ夏休みだから友達に遊ぼうって誘われた。仲直りしなくちゃ』


『七月二十二日。もう知らない。勝手にしろ。私はお前たちの……じゃ……。……んでしまえばいいのに』


 私は日記を家に持ち帰って燃やした。いじめが起きていると全ての人が不幸せになる。だからこれでいい。


 今日も私は三十九冊のノートを見る。


 今、この学校でいじめは起きていない。

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