41話 意地っ張り
エリアに精製された食料品店に押し入り、強盗犯のふたり組は陳列されている宝の山に眼を輝かせていた。
「おおっ? えっ、あれマジ……? なんてことだ」
興奮冷めやらぬまま店内を見渡していたシロの眼に飛び込んで来たのは、少しの間でも素になってしまうような物だった。
次の瞬間には、使命感に駆られたシロが両手を顔に付ける。
「なんでこんなとこにあるんだキミは! マズいぞーこれは!? 俺が保護しなきゃ!」
嬉々として走って行った先には、小ぶりな展示ガラスがあった。中には細長い瓶があり、黄金の液体はライトで照らされなくても輝いている。
混ぜ込まれている銀色の細かいラメが、黄金とのコントラストを生み出して高級感を醸し出していた。
それでなくとも、シロの反応を見ればそれなりの逸品なのだろう。
「なんだなんだ? って、俺には分かんねえんだよなぁ。まあケースに一点物で飾られてるならそれは……。まあ、高いんだろうが」
ガラスを拳で破壊して酒瓶を確保したシロに、流し目を送るリンは腕を組んで唸っていた。だが売り物にはならないだろうと気が付いて、やれやれと首を振る。
瓶に頬ずりしていたシロは、自身の収納からショットグラスをふたつ取り出した。
「ちょっと飲んでみる-?」
「ええっ? うーん。まいっか」
「これは割ったりして飲むもんだから、ちょっとだけな……。ほらっ」
「ありがとう。じゃあ乾杯だな」
シロは瓶のキャップを回し、指に挟んだグラスにそれぞれ注いでいく。リンはひと口程度に注がれたグラスを受け取って、改めてグラス同士を合わせた。
「あぁーー。これはやばいな。旨すぎだ」
「だろだろーっ? いやー、おまえにもこの深みがわかるかぁ!」
ちょっとだけなら大丈夫だと思って、つい乗ってしまったリンだった。
いくら戦闘時の様子が異常者のソレであるふたり組であっても、ここまで来てしまえば別段珍しい光景では無くなる。この略奪行為は、エリアの各地どこでも行われている所業であるからだ。
そんな略奪には程度の差がある。ならこれは、非常に慎ましい範囲と言えた。
ずらりと並んだ新品同様の建物は、中身もそっくりそのままである。そんな一層部の痕跡をひっくるめれば、外縁部で行われた戦闘に見合うだけのリターンも得られるだろう。
だがそれを、建物ひとつの少額で済ましてくれるらしい。
ならエリアも、この程度の事でいちいちうるさく言ったりしない。
「もう最高だったな……。そうだこれ、一体どんな酒なんだ?」
スッキリしたのど越し。鼻に抜ける爽やかな余韻。口に残る絶妙な甘味。どれを取っても一級品。
あの日、酒盛りした時には無かった種類の酒に、リンは文字通り酔いしれていた。たったのひと口飲んだだけでも酔いを感じてしまうほどに強い酒は、興味を引くのに十分な働きをしてくれる。
「これか? これはミードだよ、蜂蜜酒ってやつ。ただの蜂蜜酒じゃないぞ? これぞまさに、黄金の蜂蜜酒」
遥か昔。
どこかの国で数量限定生産されていた蜂蜜酒は、とあるりんごの花から集められた蜂蜜だけを混ぜ込まれて造られていた。生産者も製造所も不明の代物で、その理由は生産者の仲間内にだけ振る舞われていた事にある。
極稀に小遣い稼ぎ目的で世に晒された際、張られたラベルには『りんごちゃん特製、黄金の蜂蜜酒』とだけ、下手くそに描かれていたりんごの木の横に書かれていた。
味は勿論、字の方もやけに達筆だったというギャップも話題の酒だ。
ただ悲しい事で、世に出荷された本数は数少ない。
と、想い起こした説明をする事など出来無いシロは適当に誤魔化しておく。
「まあ昔に流行った幻の酒だよ。これをアラモードにしてた奴は多いぞ? っふふ、ああもうさ……。たぶん、だけどな」
だがラベルの変な絵を見ながら、どうしようもなく、笑ってしまった。
「多分? いやシロ……ん? はは。なんだあこりゃ、よく見ればへったくそな絵だ。隣りにある字に誤魔化されてたんだなー」
聞き捨てならない発言に、腕を組みながら間合いを詰めたシロがリンと肩を合わせる。
「おいリン、こんな絵でも頑張って描いた奴に失礼だろ? そういうおまえはどうなんだ」
「俺か? さあなぁ、俺は絵を描いた事が無いから。だが、確かめようはあるだろ?」
リンは押し合いに負けないよう肩に力を籠めて足で支えた。不敵な笑みを浮かべて視線だけを傍に向ける。
両者の鋭い視線が交差して、見えない火花を散らした。
「ああまったくだ。でも初心者に配慮して、ここは手加減してやるよ。そうだなー、ちょっとしたルールを設けてやろう」
先に視線を外したのはシロの方だった。そのまま少し歩き、店の中を見渡してルールを決める。
「ここは酒屋だ。まあこの一階を見ればわかるだろうが、二階は試飲スペースを兼ねたカフェバーにもなっている。なら場所に合わせてこれ以上のルールはないよ。ずばり、先に酔い潰れ方が負け! シンプルで単純明快だろ? わかりやすい、ってのはいいことだ」
盛大に挑発が込められた言動に、リンは意気を上げて、
「上等だ! よっしゃあ乗った!」
「ッは、その余裕がどこまで持つかねー?」
そうして、戦いの火蓋が落とされたのだった。
リンに昔の文字は読めない。当てずっぽうで文字だと言っただけだ。
読めもしない文字がキレイに書かれているのか、それとも汚く書かれているのか、などと判別するのは無理だ。だが絵は違う。
りんごの木は描いた張本人でも怖くなるほど歪に描かれており、誰がどう見ても下手くそだった。
まるで少し前に外で殺した、できそこないみたいに。
リンは確かに、下手な絵を見て内心首を傾げた。わざわざ口に出して指摘するほどでも無かったからだ。
ならばこれは、シロに気を遣った、とも言える。
一番の理由はそれでは無いからだ。リンはどうしようもなく笑ったシロを見て、その話をさせたくなかったのだ。一度起きてしまった過去を変えるのは不可能だし、その必要なんて無いと思っているから。
――これをアラモードにしてた奴は多いぞ? たぶん、だけどな。
(記憶が無い、か。謎の声はシロに随分詳しいみたいだったけど。あいつは、どう思ってたんだろ。記憶が無いってのは、実は辛い事なのかな……? ああそうか、中途半端に覚えてるからだ。昨日なに食べたか、思い出したいのに思い出せない感じだな。いや、そりゃあまあ、もっと深刻な感じなんだろうけど。そう考えるとなんか心配だな……)
判断材料は少なく、確信も持てずに曖昧な状態。
それもその筈で、リンはシロとは違う。当たり前の事だ。リンは、シロがこれまでどんな様子で生きてきたのかを知らない。何を思って生きてきたのかを知らない。シロについて、知らない、分からない事が多いのだ。
それはリンからすれば、別にどうでもいい事ではあるが。
目的はひとつ。モンスターを生み出したり人を蘇らせちまう、へんてこな木を破壊する。命の恩人からの頼み事なのだ。なら力の限り最後まで頑張って、命懸けでやる事は変わらない。
全てはその後だ。
(しかし、キャシーといいシロといい謎の声といい、最後もどうせ蘇った奴だろ。俺は変な奴に絡まれる星の下に生まれてるのか? 全く最高でいいな。……やめだ)
続く思考は死にたくなるのでやめた。友達が自分に巻き込まれて死んだなどと、それこそ今考える事では無かった。
リンは気を取り直す為に頭を振る。理由は分からないが気持ちが沈んでいるから、無理なこじつけなんてするのだ。
「うーん。よく見てみると、なんか都市にあるような店と変わらないんだな。これが大金になるってんだから不思議だ」
外縁部は昔にデザインされた、現代とは建築様式が異なる建物が多かった。しかしここ一層部には現代とほぼ同じ建物が並んでいる。ここがエリアだと分かっていなければ、本当に強盗グループの一員になったかのような気持ちを抱くだろう。
リンの疑問はもっともだとシロは頷く。
「ここまで来るのに普通のヤツじゃ死ぬからな。リンだって俺が居なかったら死んでた」
だが肝心の部分に答える事は無かった。
リンもそれに対して、別に気にした様子を見せずに平然としている。シロが居なければ死んでいたのはそうだし、疑問を口にしたのも、気を紛らわせる為に気になった事を少しばかり聞いてみただけ。
そもそもこれは雑談で、本当に知りたいのなら後で自分で調べている。
もし帰った時までに覚えていたらで、それで調べても分からなかったら、ちょっと真剣に聞いてみればいい。リンはそういう気持ちでいた。
「そりゃあそうだ。んで題材は何にするんだ? なんにしても、描く物を決めないと」
「あー題材かー……。適当でいいだろ。まずはバッグに詰めれるだけ詰め込んどけ」
数時間前はモンスターの群れを見てあれだけ弱気になっていたが、ここにきて、というか林檎酒を飲んでからは調子を取り戻していた。リンは店内を見渡しながら、いつものように話題を切り替えている。
しかも転んだ先が酒の飲み放題というのなら、それはもう喜んで店内を漁り始めた。
油断するな、油断しない、とは一体何だったのか。
アイテムバッグに許容限界まで痕跡、もとい酒瓶を詰め込み終わり、ふたりは二階のカフェバーに足を運んでいた。
ギルド支店でも見たような空間で、カウンターがある以外は特に変わった所が見られない。
「よーし。まあ最初はこういうのから始めるもんだ」
元気な声が店内に響き、本題になってしまった戦いが繰り広げられようとしている。
だが、リンは少しだけ微妙な顔になっていた。
「なあそれ、腐ったりしないのか。生もので、そのまま食えるんだろ?」
シロが題材に決めた物は、フルーツの盛り合わせだったのだ。りんご、ぶどう、スイカ、いちご、色とりどりのフルーツが盛られた木製の編みかごは、お絵描き初心者にはもってこいの題材だろう。
というのは、リンにもなんとなく分かったが。
「腐ったりしないよ。アイテムバッグと同じ、それ以上に強すぎる保護の魔法が掛かってる。店の中は精製されてから一年くらいは新品の状態で、食べ物も新鮮なままだ」
そんな説明を聞いても、リンには呆れ顔になるしかなかった。
壮大すぎる話だ。シロの話では、物体を創り出すのはかなり難しいらしい。大陸全土にエリアを創り出し、未知の常識を創り出し、新しい生命を創り出し、建物や痕跡の保存までしているのだ。
魔法について少しだけ分かってきたリンでも、思わず不可能だと言ってしまいたくなるほどに無茶苦茶だが、
不可能でないから、この世界の現状があるのだ。
「……そりゃあエリアの神秘だな。どうなっちまってんだか」
「ああまったく、かなり無茶苦茶やってるよ。いま焦っても仕方ないけどな。だからこうして、余裕を持ってお絵描きもできるんだ」
そして、その大本は微笑みながらいちごを投げて寄こした。リンは瑞々しく甘い味に顔を綻ばせる。
――今すぐ都市に帰還せよ。
そこで潤いを取り戻したような頭が冷静な判断を下した。かつてのスラム生活で培われた、異常を察知するスキルだ。
本当に肝心な時には発動すらせず役に立たなかったが、一度発動するのなら、取り合えず従っておけば8割ほどの成功を約束してくれる代物だった。
あって当然の判断は、むしろ異常者によく訪れる。
だがその過程を経ても、結果は常人とはまるで異なってしまう。常識や正常から遠ざかって自分を貫き通す為に、わざわざ道を外れるから異常者なのだ。
(なんだか久々だな……。そら誰だってそう思うんだろうが。俺には、いまそれは必要ねえ)
ここで自分から挑んだ勝負を反故にするなど、リンにはこれっぽっちも考えられなかった。
それに酒を飲むのは好きだ、好きになってしまった。まさに一石二鳥の構えを見せ、さらに酒に酔って先程までの思考をキレイさっぱり洗い流せれば一石三鳥。
リンは図らずとも、天才の構えを見せていた。
「よし、まずは一本目だな」
ここはエリアという危険地帯で、お絵描きは宿に帰ってからでも十分だと分かっているのに。外で見た異様なモンスターは、シロでも匙を投げる存在だったというのに。リンは頭に浮かんだ知らせを無視して酒を飲んだ。
真っ赤に燃えるような液体を喉に流し、全てを黙らせる。
「おおっ? さっそくやる気だな。そんな度数の高い酒をいっき飲みとはね」
「当たり前だ。俺は絵を描いた事がねえ。ならこっちで勝負するしかねえだろ」
カウンターにフルーツかごを設置したシロは、リンのやる気に応じるように酒を出しまくる。テーブルは酒で埋め尽くされ、鉛筆や筆、絵の具などの画材は端に追いやられた。
リンはなんでそんな物までという疑問を抱かなかった。もう珍しくもないからだ。
「得意分野で勝負する、賢い選択だな。でもそれだけだ。強くは無い。ちなみに、俺はおまえに絵の才能を感じるぞ。しかも、とびきりのやつだ」
「そりゃあ、まあ。描かない事もないけどさ、なんでやっても無い事が分かるんだ。才能なんて見えやしないだろ?」
シロも続いて、一本目になる酒を飲みながらそんな事を言った。キャンバススタンドに張られた真っ白い厚紙に、鉛筆でサラサラっと下描きを描いていく。
「なんでって、わからないのか? 俺はおまえの師匠だぞ。師匠が弟子の才能を確認出来なくてどうするんだ」
おどけるような口調だが、別に嘘は言っていない。
シロには本当に他者の才能が分かる。見えると言っても過言では無い。その輝く瞳は、他者の魂をも容易に見通す。だからこそ、表面上はスラムのガキにしか見えないリンにいろいろ持ち掛けたのだが。
「……そりゃあどうも。だが俺の下描きを見てくれ。引いた線は真っ直ぐ行かずにくねってる。シロとはえらい違いだ」
不貞腐れたリンに、シロは軽く笑って、
「最初から上手なヤツなんていねえよ。確かに才能は否定できないが、それでもみんな、続けてってうまくなってくもんだ。だろ?」
それでも負けっぱなしは嫌なので、リンは追加の酒を飲んでおく。
「ふふっ……。頑固だねぇー。でもどうせ、酒だって俺の方が勝つぞ。どうするつもりだ?」
「ああもう、うるさいぞっ。俺は飲みたくて飲んでるだけだ。それの何が悪い」
酒を飲みまくるリンに、シロは鉛筆を立てながら声を掛ける。すでに勝負など関係なく、ヤケ酒に等しくなっているリンは自分でも無理があると分かっている言葉を並べ立てて抵抗した。
「良い悪いの話なんかしてなかっただろ、だいじょうぶかー? ああそうか、なるほど。もう酔ってるのか」
当たり前だが、天才の前ではすぐに突破されてしまう。
「言ってろ」
頑固で意地っ張りで負けず嫌い。
やっぱり、手がかかって馬鹿な子ほどかわいいものだと、親馬鹿にアル中の要素が追加されて、シロは不気味な様子でにやにやしている。それに思わず顔を歪めるリンは、捨て台詞を吐いて酒を追加した。
「これからもそうさせてもらうよ。おまえといると退屈しなくていいかんねー」
リンが椅子に座り込んだことで、シロもやれやれと手を振って酒に付き合う。リンはテーブルに頬杖を付いて、シロは椅子にもたれながら足を組んで、静かに飲み比べを始めた。
飲み比べに厳密なルールを定めた訳ではない。
ここでは相手と同じ量を飲むのがフェア精神だろう。そもそも、ラベルの文字を読めないリンは勘で酒瓶を選ぶしかなかった。それでも、度数の高い酒から手に取っていくのは偶然なのか。
シロは幸運なリンの様子を面白そうに眺めていた。一階で漁っていた時もそうだが、掴み取っていたのは全て高い酒だったのだ。
少しすると、
「なに言ってんだ、最初から諦める奴があるか。まだまだ、勝負はこれからだ、俺は酔ってなんか無い、この程度、全然余裕なんだからな。絵だって、これから覚えてけばいいんだ、だってそうだろ? 俺にはまだまだ、知らない事があるんだ。これから知って行かなくちゃさ……」
七本目を飲んだ辺りで、視界の端がぼやけて世界が回り出す。いっきに飲んだ弊害もあるのだろう。その状態で描きかけの絵に向かい、ありったけの独り言を放ちながら下描きの続きを描いていく。そんなリンからは自然と笑みが零れていた。
完成した下描きは酷い出来。しかしリンは、満足していたのだ。
「やっぱり見立て通りだ。おまえは上手くなるよ、間違いなくな」
シロが初めて先攻する。八本目の酒を飲みながらリンの頭を撫でた。
最近はほとんど撫でる側だったリンは久しぶりに照れくさく感じつつ、別に嫌いでは無いのでされるがままに眼を細める。これを言い訳にしてもしょうがないが、酔っ払う手前という状態でもあった。
それまでの独り言の内容は、頭からすっ飛んでいた。
時は少し遡り、リンとシロが気絶に近い状態で大人しく眠っていた頃。
「定期連絡だ。こちら異常無し。どうぞ」
「こっちもだ。特に無し」
「こっちも同じ、異常……いや待て、こりゃどうなってやがる!?」
「おいどうした? 何があった、援護が必要か?」
「……いや、大丈夫だ。恐らく原因を見つけた。オーケーだ、位置情報は送信されてるな? みんな集まってくれ」
コロニケの外縁部に、リン達以外の探索者パーティーが入り込んでいた。
「了解だ。すぐに向かう」
彼らは自殺行為である事を重々承知していて、だが自殺志願者達ではなかった。それぞれが探索者レベル25に相当しい装備に身を包んでいる。
エリアという危険地帯に挑むに相当しく、ここが数日前に大活性を起こした未知の領域であるという事もしっかり覚えていた。
スラム街の住人でも知っている事を、まともな生活を送って、常日頃から探索に必要な情報を得ている彼らが知らない筈も無い。
当たり前の感覚と未知へ挑む覚悟を持って、自身の命とその先にあるだろう利益を天秤に掛けながら、緊張感を絶やさずに探索を続けていた。
そして、自分達の限界と安全域を定めて探索を外縁部までとしていた。
胞子濃度も高く、安物の索敵器では索敵も満足にいかない状況。
そこで遭遇するモンスターの強さが並みでは無かったのだ。撤退するほどではないが冷静に戦力を見極めて、より危険な一層部に行くほど無謀でもイカれてもいなかった。
それに、今日は様子見を兼ねた討伐依頼をメインとしていた。
そこらの建物から痕跡を漁りもせずに、モンスターとの戦闘に専念していたのだ。その際中、一行は聞き捨てならない爆音と強く吹き抜ける風を身に受けた。
現在は6人がツーマンセルに別れての、異常の原因を見つける際中だった。
そして原因の特定は、調査を始めてから数十分も経たないうちに済んだ。
「これは、一体ここで何があったんだ……?」
「エリアが更地どころか窪地になってんぞ……。どう考えても普通じゃねえよ」
「さっきの爆音はここが発生源と見て間違いないだろうな」
先にたどり着いていた者はすでに落ち着きを取り戻した様子で、集まった他のメンバーに対応している。
「中心に見えるのは何だ? モンスターっぽく見えるが……。なら別の探索者の戦闘跡、いやまさか、本当にあり得るのか……? 都市の連中は今忙しい筈だろ? エリアに構ってる暇なんか無い」
「ならこれを平気でやる個人が来てるって事か? パーティーにしろクランにしろ企業にしろ、どのみち冗談にもならねえよ。人型兵器にでも乗り込んで来たのか? 全くどうなってやがるんだか」
「タキオン砲でもぶち込んだってか? こんな平和な場所で、何の為にだ」
「さてな。ただ言えるのは、それが必要なだけの戦場だったって事だな。そいつにとっては」
「これだけの被害だ。外縁部とはいえ、一体どれだけのモンスターが湧いてくる!? 全て蹴散らしたとでも言うのか!?」
「極秘兵器の実地テストにしても、こんな場所で、頭がどうかしてるに違いねえぜ……!」
男達は口々に意見を出しながら状況を推理していく。
だがその中でも確実に決まっている事があった。多数決にもならずに全員が、他のメンバーの顔色を窺わずとも満場一致の決断を下す。
「イカれ野郎に巻き込まれないうちに引き上げるぞ!!」
6人分の威勢が良い声が轟き、男達は最大限の警戒をそれまで以上に怠らずに、早足でエリアから退散した。
男達には目星が付かずに認識できなかったが、その窪地の中心には、人間の手のひら大ほどの影が蠢いていた。
殺されたばかりのモンスターの死骸を、おびただしい数の影が喰い漁っていたのだ。影は死骸を取り込む毎に大きさを増し、その場がキレイさっぱりになるまで食事を続ける。
やがて影は、できそこないに進化していく。
進化した個体から、エリアの奥地へと走り去って行った。
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