27話 レベル1000

 ノライラ都市からそこそこ近いフィールドの外れでは、大事件が起こっていた。


「増援が来たぞっ! 巡回トラック二台だ! 車両を接近させるから、必要な物資を分けてもらえ!! ついでに都市までもう少しだ! どうせならあとちょっとだけ生き残れ! いいな! もう少しだッ!!」


 ダミアの嬉しそうな怒声がスピーカーから響き渡る。到着した希望に、みなようやく笑みを浮かべた。


 だがそれは、スカイフィッシュの行動が制限されたという意味でもある。先程まで無数にもあった選択肢が狭まり、行動を強いられていた。





 荷台は新たにごった返しになっている。


「手を貸せ! 負傷者はこっちのトラックに移動させろ!」

「こっちだ! 何でもいい! とにかく弾をくれ!」

「こっちは回復薬だ! 金は都市かギルドに請求してくれ! 間違っても俺にすんなよ!?」


 走行しながら二台に並んだ探索者ギルドの大型トラック。そんな光景はギルド職員の技量が伺えるものだった。


「お前が誰だか知るかっ! それにこんな状況で依頼を受けた奴なんざ、文無しって相場が決まってんだよッ!!」

「銃は無いか!? さっきので壊れたんだ! これじゃあ戦えねえ!」


 その上で探索者達が物資の受け渡しと負傷者を片方のトラックに集めていた。負傷者を回収していたトラックから数個のバッグが放り投げられ、中に入っていた物資が荷台の上にばら撒かれる。


「万事受け取ったぜっ! ありがとうよお! これで生きて帰れるぜッ!!」


 回復薬、汎用弾、銃、全て不足分を補うのに十分だった。歓喜が上がり、そこに群がる探索者達。もう一台のトラックはその援護だ。少し離れた所で、小魚達の気を引くように銃撃している。


「リン。弾は大丈夫? もう少ないんじゃないの。私もそうだし、一緒に補給しにいこうよ」


 ナツメに話し掛けられ、リンは確かにそうだと確認する。


 あんなにあった弾倉がもう一個も残っていなかったのだ。リンはまたひとつ学んだ。弾が無ければ銃は鈍器にしかならない。シロが言っていたのは、こういう事だったのだと。


 だからって、これを振り回す訳にはいかないだろう。


 リンは銃を振り回してモンスターを撃退する真っ白な少女を想像してしまい、どこか複雑な表情で見守るしか無かった。


「……そうだな。ああ行こう」

「そうだよね。いこっ」


 リンが移動する際、運ばれていく負傷者の中に拳を合わせた者が居たのを見た。すぐさま駆け寄り、バッグと銃をその男を運んでいた者に預ける。そして呟くように礼を言った。


 ふたりは雑談しながら、荷台に散らばっている弾倉を集めていた。その途中、気になるものがリンの眼に飛び込んで来た。


(あれ? なんでこんなキレイに残ってるんだろ……? まいっか)


 リンはそれを掴んで、どこか疑いの眼を向けながら笑った。


 ナツメはそれに気付かなかった。黙っていたシロはどことなく、それを不思議な目で見つめていた。


 いろいろと疑問が解消された。しかしリンはあんな大きい銃を本当に撃ったのだろうか。流石に改造部品のお陰で、生身でも撃てるようになっていたのだろう。


 ナツメが頭ではいろいろ考えながら、話を続けようと、弾薬をポーチに詰めながらリンの方を見る。

 

「これで少しは持つかな。無駄にならないといいけどね……。ていうか、あの銃とバッグはあの人のだったんだ。リンは生身だよね? あんの撃って、だい……、え、あなたそれ、なにしてるの………?」


 リンは普通に、しかし微妙な顔で言った。


「んっ? なにって補給だけど。でもこれ、旨くないな。見た目通りだ。なんか硬くてチクチクするしさ……」

「………。そう。それは、しらなかった」


 リンが掴んでいたのは、スカイフィッシュ本体から生み出された小魚だった。死んで空を泳げなくなった個体が、荷台の上に落ちていたのだ。


 まるで突然死したかのようにキレイな状態で、砂埃すら付いていなかったが。


 そんな事はどうでもよく、リンは小魚の腹にかぶり付いてしまっていたのだ。


『いぎゃぁああああぁぁ!!!! なにしてんだお前ッ!! ぺっしろ!! ぺってッ!! ああもう! どういうことなんだ一体ッ!? うああぁああ……!! リンがあああああぁぁ……!』


 シロの頭の中で、リンが正体不明の物体にかぶりつく様子が何度も再生される。金切り声が響いたのは、リンの行動を理解したその直後だった。


 理解するまでに、それなりの時間を掛けたのだ。


『――うおあぁ! シロ抑えてくれ! 頭がどうにかなりそうだっ!』

『お前が抑えろよ!! もうなってるから意味わかんねんだよッッ!! ああもう……! もうばかなんだからおまえはもうっ!』


 両手で頭を挟んで叫び声を上げたシロ。送信の調整など欠片も忘れ、リンの受信帯に届いたものは、理解も出来ない怨嗟の叫びだった。


 シロを認識できないナツメからすれば、モンスターを食べたリンが苦しみだしたようにしか見えなかった。


 驚きはあったが、それ以上に心配が勝った。すぐに安否を確認する。


「ちょっとリン!? そんな事するから! 大体、魚って生で食べる物じゃないんじゃない? 私が知らないだけかもしれないけど……」

「ああナツメ。何てことない。腹は、大丈夫だ……。くっ……! こんな状況で嫌がらせとは、何考えてやがる、俺には理解出来ねぇ」


 理解できないのはこっちの方だ。


「本当に大丈夫なのかな」


 か細い呻き声を上げるリンを見て、ナツメは頭の心配するしか無かった。シロも馬鹿を治す為か、その頭に拳を何度も叩き付けている。


 だが実体では無い為に、そこに意味は無いだろう。


 そうこうしている間にも、負傷者を乗せたトラックは離脱していく。


 ダミアは助手席に乗せていたギルドの同僚と別れを告げていた。探索者はともかく、まともなギルド職員というのはそれなりに貴重だ。優秀な人材を死地に纏めて置いていく訳にはいかない。


「……、ダミア。また会おう」

「なんて顔だよっ! ハッハ……! 飲みに行くのは、明日でいいさ」


 護衛をしていたもう一台のトラックが離脱するトラックに近づき連携を取る。彼らは職員と負傷者の回収をしに来ただけなのだ。それでも、彼らが頭のネジを外した者達であったことに間違いは無かった。


 スカイフィッシュの準備もようやく終わった。


 離脱するトラックは無視して、目くらましと様子見の目的で精製していた、分体である小魚を集結させる。


 何故かは分からないが、厄介な人間は限界のようで何やら苦痛に呻いていた。最初に分体を殺してみせた時の反応はすっかり消え失せ、死ぬ寸前かのように弱々しいまでなっている。


 最終目標までもう少しで、これ以上は引き伸ばせなかった。


 勝負は、今ここで決める事にした。





 探索者達の尽力によって、雨のように降り注いでいた小魚の群れ。


 それがいつの間にかトラックの上空を越して、進行方向に、まるで壁のように集まっていく。それを見た探索者達がそれぞれ愚痴を零す。


 先程までは上空に浮かんでいた為に射線が通っていた。


 だがこの位置関係では誤射をしない方が無理な話だ。トラックがこの速度で急な旋回などしようものなら、車外へ放り出されてしまうだろう。


 状況は一転して、モンスターが有利となった。


 群れを成している魚の先が見えているシロが、真剣な顔をしてリンに話す。


『リン、来るぞ。これから危険な事をするが、多分、大丈夫だ。俺も絶対とは言えない。だがもしもの事があれば、その時俺は――』

『――何言ってんだよシロ。危険じゃない事なんて、今まであったか? でもシロは全部、乗り越えて来ただろ。だから俺も頑張る』


 リンは既に限界だ。いくらポーションを飲んだからといって、無理をしているのには変わりない。


 それでもやると決めたのなら、シロは大人しく見守る事にした。


『リン……。そうだな。俺にもいろいろ事情があってな、そうバカバカと力を使う訳にはいかないんだ。だから、使える物を使う。こういう時頼りになるのは、やっぱりポーションだ。俺が選んでやる。とっておきだぞ? とびきりにうまいのをやるよ』

『それ気にしてたのか?』

『いいから、さっさとやれや』


 テレパシーでの会話を即時に終わらせたリンが、何時ものようにアイテムバッグに手を突っ込んだ。


 手が勝手に触れた瓶を掴み取って栓を引き抜いた。そのポーションは、いつも飲んでいた物とは色が違うようだった。


(こんな色してたのあったっけ? でも旨いし、なんでもいっか)


 中身が真っ白いポーションを、半分だけ飲んでから気付く。そういえば礼は言ったが、まだ物を返してなかったと。


「そうだナツメ。これを飲んでおいた方がいい。そう、やばい予感がする」

「ええっ!? ちょ、ちょとそれ、リンが飲んでたやつじゃ」

「いいからさ、回復薬の礼だよ。あんまり時間がねえ」


 前とは立場が逆となってしまい、ナツメはむりやりに瓶を掴まされた。だが好意を無下にするのも悪いので、大人しく目を瞑って飲むことにした。


 冷静にこの意味を気にするなど、恥ずかしかったのだ。それに、リンはなんだか慌てた様子だった。


(なに、これ、絶対エリア産だよねこれ。つまり痕跡ってこと? リンはどこでこんな物を……)


 飲んでみて分かる。このポーションは、自分が差し出した回復薬とは雲泥の差だと。


 力が漲り、体は出発前より冴え渡っているかのようだった。半分しか飲んでいないのにもかかわらずである。あまりの事に動揺してしまい、出所をリンに尋ねる事すら出来なかった。


 運転席ではダミアが迷っていた。このまま進んでも、トラックを走らせてもいいのかと。確かに進行方向は一面魚の海だが、別に衝突する訳では無かった。


 それどころかこちらを置いて、どんどんと壁が遠ざかっていくのだ。


(クソっ。何を狙ってやがる? モンスターに知能なんかねえってのは俺の思い込みか? 離脱するトラックを無視してたのは偶然か? あれからでけえ本体も空に見えねえ。もし居るとしたら、その奥って事になんのか? だが一度でも止めちまえば、また動き出すのには時間が掛かる……。都市までももう少しで、今更止められもしねえ。それにやべえ胞子濃度だ。計器が振り切るなんて見たことねえよ、イカれてやがる! あのデカブツが何かしやがったのか!? これじゃあ短距離通信すら出来ねえ!! クソッ!!)


 結局どうすることも出来ない。少しずつ速度を緩めながらの、現状維持が精一杯だ。


 しかし正解の選択肢など、もはや残っていないのだ。


 人間はエリアが活性化しているという事態に、そもそも都市の外に出るべきでは無かった、というのが一番だっただろう。ハイリスクはハイリターンを生む。それも、生きて帰れればの話なのだから。


 今まさに、運命は決まっていた。夢破れ、リスクに飲まれる時が来たのだ。


 目標を前にして意外とも言える選択を選んだスカイフィッシュに、シロは予想を的中させた。


(やはりな。そんな程度の強さでボスに挑むのはさぞかし不安だろう。しっかし、お前等もほんと大変だなあ。それに免じて、素直に行ってくれれば見逃してやったのにさ)


 例えそれが成されても、シロからすればどうでもよかった。


 都市のひとつやふたつが滅びようと、関係ないからだ。だが、リンを食うとなれば話は別だった。それだけは、シロが持つ逆鱗に、狂気に触れてしまった。


 奪われるというのは、この上なく嫌いなのだ。


『リン! 荷台の一番奥だ! 俺が体を動かすから、それに合わせろよ。そのあとは、なんとか頑張れ』

『了解だ!』


 トラック荷台の運転席側。その壁にたどり着いたリンの後ろで、ナツメが突然走り出したリンを追って走って来た。


「ちょっとリン!? どうしたの!」

「そう、やばい予感がする。つまり勘だ」

「勘か……。なら頼らせてもらうね」


 この先を知らされていないリンはナツメの問い掛けに、同じように誤魔化すしかなかった。ナツメは不思議そうにしながらも、この状況をどこか楽しんでいた。


 シロはそんなリンをじと目で見ていた。このたらし野郎がと。


『ちょうどいい。ナツメも連れてけ。大胆にもポーションを飲ませてたし、だいじょぶだろ』

『連れて行く? 一体どういう事なんだよ』

『この先をいま知っても、それじゃあ面白くないだろ? これも探索者の醍醐味ってヤツだよリン! 期待してるぞ?』

『だから何をだ……? まあ分かったよ。それに、面白いってのは最重要だ。期待してるぞ?』


 ふたりが笑い合う。ナツメは虚空に笑い掛けているリンを見た。微妙な顔になるしかなかった。


 突然モンスターを食べてしまうのだ。やはり探索者、どこかまともではないのだろう。





 運転席ではダミアが肝を冷やしていた。


「――クソッ!! あり得ねえ!」


 壁のようになっていた小魚の群れ。それが突如として一体のモンスター、スカイフィッシュとなったのだ。


 巨大な体躯は、前まで空を泳いでいた本体そのものだった。遭遇した時はかなりの上空に居た為に分からなかったが、間近で見れば高層ビルかのようだった。


 当然こんなトラックでは勝てる訳がない。


 そんな巨体に似合わない機敏な動きで反転すると、大口を開けてトラックごと飲み込もうと、真正面から体当たりしてくる。ギラついた特大の歯を見た者達は凍り付くしかなかった。


 相手は大型のトラックよりも大きいのだ。しかもとんでもない速さで泳ぎ、今なお走行しているトラックと衝突してしまえば被害は甚大。ここで死ぬしかない。


「各員衝撃に備えろッ!! うおおあぁぁああ! 曲がれええええぇぇ!!」


 ダミアが迫りくるスカイフィッシュを見て判断を下す。ハンドルを勢いよく回してブレーキを踏み、ただ祈った。何に祈ればいいのかなど、ダミアには全く分からなかった。


 だから取り合えず、神に祈った。


「全員荷台の縁に掴まるんだぜッ! ぼーっとしてたら死んじまうぜッ!!」


 状況をいち早く的確に掴んだ者が叫ぶが、荷台の者達はパニック状態だ。


 動ける者はとにかく何かに掴まりながら、パニックを受けて動けない者も。それら全てを、当然の現象である慣性が薙ぎ払おうとする。


 生き残れるかどうかは五分五分だろう。各自の技能と幸運次第だ。勿論それは、超巨大なスカイフィッシュが存在していなければの話である。生存の見込みは限りなく薄く、辛うじて生きても死に体が精一杯だ。


「ちょっと、あれは流石に不味いんじゃない!? いけない! リン掴まってッ!」


 ナツメは荷台の縁に掴まろうと、しゃがみながら叫んで手を伸ばす。


 しかしリンには分かっていた。それは確実な道では無いだろうと。


「駄目だナツメ! こっちだ、俺に掴まれ……ッ!!」

『――行けリン!! 安心しろ! 俺が付いてるッ!!』


 最初の一歩を踏み出した時点で、体は勝手に動かない。


 それでも、全て分かっていた。意識より早く体が最善を実行する。その体に追いつく為に、強く集中して意識をも合わせる。激しく痛む体、鳴り止まない警鐘で破裂しそうな頭。全て無視した。


 シロの声を追い風にして駆け寄る。そのままの勢いでナツメを掴み、車外へと飛び出した。


「ええ゛っ! いやちょっとおおぉぉ!! リン死んだら恨むからねッ!!」

「俺はレベル1000の探索者だぞ!? この程度、なんでもない!!」

『お前はやっぱり最高だ! それでこそだ!! ならそっちは任せたぞ!』


 リンには世界が止まって見えた。


 抱きかかえているナツメの泣き顔も、迫りくる巨大な魚も、走行中のトラックも、その上に乗っている者達の必死な行動も、眼下に広がる大地も、どこまでも広がる青い空も。


 なにより、強く輝いている太陽を見た。


「当たり前だ! 今度こそ俺がリンだ! ――誰が何と言おうとな……ッ!!」

「うえぇぇ!? た、たかっ! 意味が分からないよおおおぉぉ!! 絶対死んだッ! 絶対しんだああああぁぁ!」


 跳躍は5階建ての建物をゆうに超えている。


 踏み込んだ箇所は厚い鉄板だというのに凹みが出来きており、痛烈な威力を物語っていた。


 浮遊感が収まると同時、空中で絶叫しているナツメをお姫様抱っこする。着地時の衝撃を自身のみで受け止める為で、生身のナツメに負担を掛ける訳にはいかなかったからだ。


 リンも生身だが、大丈夫だと確信しての行動だ。ナツメは力いっぱい抱き付いていて、これなら問題が無い筈だ。


 上半身から姿勢を維持する以外の力を抜き、下半身にのみ集中する。着地の衝撃を脚腰だけで受け止め、地面を滑りながら勢いを殺す。土が抉れ、その中に体が埋まってようやく止まった。


 ふたりとも無傷である。しかし、ナツメはあまりのショックに気絶していた。


「ぺッ!! 流石に、土は食わないよ」


 吐き捨てるように言って、少し離れた場所までナツメを運んで膝枕をする。その直後、強い脱力感に襲われて意識が朦朧となる。


 だけど、大丈夫だと思って身を任せた。





『おい雑魚!! うめえ魂はこっちだ! 掛かってこいやあ……ッ!』


 トラックから飛び出したリンの背後では、リンにも見えなくなった女が空を飛びながら挑発していた。


 さんしたのチンピラかのような言葉だが、かつてこの化け物の前に立てた人間はひとりだけだった。


 しかし、モンスターに恐怖心など備わっていないのである。あって当然の心を持つだけ、進化した個体でもなかった。


 突如現れた極上すぎる魂に食いつき、トラックと衝突する寸前に翻る。釣り上げられた魚は全力で泳ぎ、自身が持つ最大威力の魔法を構築開始した。


 攻撃に転じて、防御が疎かになった一瞬を見た化け物が、にんまりと笑って腕を向ける。


「それを待ってたんだよ! こんの――ばーかッ!!」


 また姿を変え、幼い少女が中指を立てた直後だった。


 追いかけていた反応が消え去った事で、訳も分からずといった具合で混乱してしまったスカイフィッシュに、無数の弾丸やミサイルが直撃する。


 それら重なった衝撃によって、制御を失い暴発した魔法が体内で奔流と化す。


 暴れ狂う力が爆散し、大量の水飛沫が内側をずたずたに引き裂いた。


 本来ならば対処のしようがあったものの、完全に硬直してしまった死に体が追加とばかりの弾頭を貰い、巨大な肉片へと姿を変えていく。血で染まった魚体は、光を全て奪ってしまうような漆黒から深紅へと変化していった。


(最初に言っただろ、遊んでやるって。雑魚となんざ勝負にもなりゃしねんだよ)


 シロは天秤が置かれた台座ごと蹴飛ばして、勝負を反故にした。圧倒的な力技だった。


 高層ビルのように大きいモンスターが上空で爆散したおかげで、辺り一帯に血の雨が降っている。


 血肉が最期の魔法と混ざり合い、フィールドに血の沼を作り出していた。真っ赤に溜まるその中には、得体が知れない何かの臓物や肉片、砕けた黒い鱗がぬらりと光り、凄惨な光景を作り出している。


「うーん! できないことができるようになるのは、やっぱり気持ちいな! ああそうか、そういう考えも。まあ今はいいか!」


 空中で盛大に伸びをして何かを思いついたように顎に手を当てるが、ちらりと辺りを確認して、満足げにリンの元に戻って行った。


 何のことはない。とっくの昔に見慣れ過ぎた光景だった。

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