5話 脱出

「……ぅうん? すごい光だったな、目も開けてられなかった」


 シロから発せられた眩い光の奔流に、リンは目を開けていられなかった。ようやく光が収まったと感じて目を開けると、一体なにがどうなっているのかを確認する為に呟いた。


『ああ。俺も初めてだったからな。なるほどこうなるのか……』

「えっ、あれ? シロ!? どこにいるんだ? 声はするのに」


 シロの声を聞き、周囲を見渡す。だがリンの目には、空になった店内しか映らない。もしかして自分は今まで幻覚を見たり、妄想の中で過ごしていたのだろうか。言いながら、そんな考えが頭をよぎる。


 そして最悪の答えにたどり着く。自分はあの時に、部屋でモンスターに殺されたのだと。しかしそんな考えを否定するかのように、両手は温かい感覚に包まれていたままだった。その両手を確認するように顔の前へと持っていき、凝視する。


(やっぱり、現実だよな? 一体何がどうなってるんだか)


『あー、ここだよここ。聞こえてるよな? おーい、なんとか言ってくれー。大丈夫だよな……!?』


(ていうか、俺の頭の中から声がする。どういうことだ? 誓約って一体、シロは何をしたんだ)


 信じる。リンはそう覚悟していたが、この状況には流石に驚きを隠せなかった。頭の中からは今もシロの声がするが、それどころではなかった。頭が真っ白になってしまい、思考も停止していく。


 少ししてから、このままでは良くないと本能が悟り、冷静になりはじめた頭が思考を再開させる。それを見計らったかのように、シロの優しげな声が頭に響く。


『落ち着いたか? 説明不足で悪いが、そろそろ動き出さねば都市に戻る前に夜が来てしまう。今のおまえが夜闇の中戦うなど自殺行為だ。俺は撤退をオススメするぞ。命は、大事にしないとな! そうだろ? リン』

「確かにそうだ。俺が出発したのは、……日の出だった。それからエリアに着くまで、エリアで探索にかけた時間、そろそろ戻らないとモンスターの餌にされちまう」


 と、シロの言葉を確認するように喋り続けた。それは無意識のうちであり、冷静に思考を取り戻す為に必要な行為だったと後から分かる。そうだ、今こんなところで死んでる訳にはいかないのだ。そう思うと、リンは行動を開始しようとする。


 そんな時、また声がする。


『リン。まずは、俺が集めたカゴに入ってる痕跡を、全部アイテムバックに移すんだ』

「この背負い鞄のことか? 分かった」


 シロの声に従い、カゴの痕跡と自分が持ってきた袋を詰めていく。どれだけ中身を詰めようが、不思議と形も重さも変わらないアイテムバックなるものに、リンはこれはすごい物だと感心する。


 これを売ったらどれだけの金になるのか、リンには想像が止まらない。


 探索者達が自らの命と天秤に掛けるだけの利益が、そこにはあった。


「よし、と。シロ、詰め終わった」

『よし、良くやった。じゃあ次は、最寄りの都市まで帰還だ! リンよ!』


 そう言って自信満々な表情で、店の出入り口を指しているシロを見た気がした。それは瞬きの内に消え、目を擦っても見えなくなったからだ。


 異常な事態が続くが、今は気にしてもしょうがないと、冷静にシロの言葉に反論していく。


「って、言われてもな。今の俺じゃあ、モンスターと出会ったら死ぬしかないんじゃないか? 本当に、どこにいるんだよ。シロ……」


 命の恩人の姿が見えないことで、リンは思わず弱音を吐いてしまう。意気が下がり、絶望的な状況に身を置いている事を意識してしまう。ここには水も食料もなく、店の中に籠れたとして一週間後には、骨と皮だけの自分が誰かに発見されるだけだ。


 その前にモンスターが店に入って自分を襲う確率の方が高い。判断が遅れれば、無駄に体を弱らすだけだと今すぐ都市へ向けて出発しても、この身ひとつで生還できる自信はない。


 そもそも、ここが何処だか分からない。自分は魔法陣によって転送された身である。思考が下へ下へと落ち、何ひとついい事が見つけられない。頭を抱えうずくまると、また声がする。


『なに、心配するな。俺はいつでもおまえの傍にいる。それに約束しただろ? まさか、もう忘れたのかー?』

「……ああ、そうだった。じゃあ任せたぞ、シロ!」

『任せろ! 絶対に死なせはしない! さあ行け、勇気を出すんだ。リン』


 リンは本当は怖かった。それも、無理ない話である。エリアには、スラムの子供など片手で捻り潰すモンスターがそこらにいるのだ。だがその恐怖を、リンはシロへの信頼でねじ伏せる。


 今更自分だけでこのエリアから生還できるとは思えなかったし、どうせシロに裏切られれば自分は死ぬしかない。自分だけが信じていても相手がそうである保障はないが、あの時見たシロの笑顔と、約束を胸に立ち上がる。


(大丈夫だ。落ち着いて行動すれば、無事に都市まで行けるさ)


 リンが店から一歩を踏み出すと、吹き抜けた風が鋭く肌に当たり、エリア独特の空気を運んでくる。血と硝煙の臭いだ。周囲の建物からは長い影が伸び、日が落ち始めていることが分かる。


 自分がエリアに来た時とは、世界が違った。


 夕暮れの闇がリンの心を不安にさせ、恐怖の正体を幻視させる。視界外や建物、闇の中から今にもモンスターが出現しては、自分を食い殺そうと狙っているかもしれない。そんな想像をしてしまい、体は震え上がる。


 だが、リンはそれでも行かなければならない。生きる為には、危険を乗り越えなければならないのだ。


 大体こんなエリアの中なのに店で立て籠もっていても、状況は改善しない。それに、自分には証明しなければならない事がある。いつも通りだと、リンは自分自身を騙す。


 勇気を振り絞って、二歩目を、三歩目を……。都市まであと何回、足を踏み出せばいいのか。恐怖で動けなくなるのはまずいと、リンの防衛本能が思考をシャットアウトした。すると考えるのをやめ、走り出す。


 リンには都市までの正確な道のりは分からない筈だが、足は勝手に走る速度を上げていき、次第にエリアを風のように駆ける。それをどこか、他人事のようにリンは見ていた。





『リン。今日は楽しかったか? いい一日になったか?』


 心配そうなシロの問い掛けに、リンは自分がいつの間にか都市の近くに居ることに気が付いた。都市を出た時にも見た光景だ。辺りは暗くなっているから朝とは印象が違うし、正確な位置は分からない。だがもう少し行けば、都市が見えてくる筈だ。


 そう思うと、自分はあの危険が一杯のエリアから生還したんだと理解する。


 しかも背中には痕跡をたっぷり詰めたバックを背負って。かつての自分が出来なかった事を、今の自分が成し遂げたのだ。その事実に、リンは達成感に包まれる。異常な程の高揚は収まらず、そのままの勢いで口にする。


「最高だよ! 生きててこんな日は無かった! ありがとうシロ!」

『そうか……。そうか! 良かったな! だがこんなものではないぞ? 世界はな、いつだって美しく輝いているからな。俺はそれを知ってるんだ。おまえにも教えてやる』

「そっか。俺に、分かるかなぁ」

「そうだな………。でも、きっと分かるさ。俺の弟子なんだ。ほら、都市が見えてきたぞ。よくここまで頑張ったな。リン」


 リンはいつの間にか、都市とフィールドの境目に立っていた。


 リンはここまでずっと走っていた。だが不思議と息が続き、体はどこも痛くない。そういえば、途中でモンスターとも出会わなかったと思い出す。多分シロが何かしたのだ。今は、それでいい。今は、無事を喜ぼう。今の自分はひとりじゃない。ほら、隣りにいるじゃないか、自分の無事を喜んでくれる者が。


 リンはそう思うと、ようやくおかしいことに気づく。


「シロ!? 今までどこにいたんだっ!? ていうか……、本当に目の前に居るんだよな? 俺の見間違いじゃないんだよな?」


 リンは今まで姿が見えなかったシロの姿を確認すると、その衝撃に目を見開き、大声を出した。だが、さっきみたいにすぐに消えてしまうのではないかと思うと、ジト目になってシロの存在を疑いだす。


「ああ。見間違いじゃないぞ。それから、体に異常はないか……? よく確認してみろ」


 だが逆に、心配されるように言われてしまった。どう返せばいいか分からず、リンはきょとんとした顔になる。


(どっちがだよ……。いきなり消えたり現れたり、頭の中に声を響かせたり。間違いなくおかしいのはシロだ)


 リンはそう思ったが、黙って言われた通りに行動する。体を触り、痛みが走らないか確認する。特におかしな所はない。


「異常は、ないけど」


 シロ以外は。という言葉は飲み込んだ。


「ならよかった。俺は人と比べてデカいからな。しかしリン、本当に何者だ? 送受信帯はもちろん、受容体までデカすぎるだろおまえ」


 それに、リンから感じる一番の問題もある。


 シロから意味不明な言葉を並べ立てられ、動揺しながらも、リンは自分が唯一知っている事を話す。あまり人に話したい内容ではないし、相手もすぐに自分をスラムのガキだと思う為に、身の上など話したことは無かった。話していく内に無意識で声が小さくなり、最後の方は、もはや言葉にもなっていなかった。


「何を言ってるのか分からねぇ、俺はスラム出身のただのガキだ……。親も、しらない…………」


 そうだ、自分は親に捨てられたスラムのガキだ。


 そう初めて言葉にしたことで、自分を再確認していく。途端に、背負っているバックが、中に入っているであろう痕跡が、なんだかくだらない物のように思えてきた。


 なぜだろうか。自分は力を求めている。その為に金が必要で、バックや痕跡はその為の第一歩なのに。


 リンのそんな思考は、突然の衝撃に中断される。


 悲しげに見えたリンに、シロが抱き着いたからだ。


「おおー、ならこれからは俺が母親になってやろう! ハッハッハ!! 師匠に母親にと、俺は大変だなあ! まったく……」


 自分は甘さを捨てたつもりだった。だから結局はこうなる。けど、いいじゃないか。ひとりは寂しいから。シロは腕の中にいる存在を絶対に離してなるものかと力を籠める。


「うおっ! や、やめろ! 膝枕もそうだったけど、なんで平気でそんなことが出来るんだ!? ッヤバイ! 離してくれ! 息が!!」

「ヤなこった! おまえも疲れただろ!? 俺が背負ってくからさっ! まだ寝てろよ!」

「息ができねえんだよっ! 死んじまったら疲れるとかねえだろ!!」


 もごもごと言い放ったリンは、シロの胸の中に顔を埋めているので気が付けない。シロの頬に、雫が伝っているということに。





 ここはノライラ都市。リンが失意の果てに流れ着いた、第二の故郷である。


 以来ここで過ごし、リンは復讐の牙を研ぎ続けている。都市の配給で食いつないでは、スラムから少し離れたクズ鉄広場を漁り歩き、僅かばかりの金を稼ぐ。


 モンスターの襲撃があれば賢明に立ち回り生き延びる。そして戦場跡を駆け、これからも自分が生きていく為に、死んだ者にはもう必要ないであろう金や装備を剝ぎ取っていく死体漁りの毎日。


 そんな事を来る日も来る日も続け、続け、続け、……生きるのが嫌になっていく。


 だがそんな弱い自分を力強い意志でねじ伏せ、確認するように復讐を誓う。何度か襲撃を生き延び、遂には死体から拳銃を発見する。これまでの襲撃は朝方だった為に、競争率が高かったのだ。それが今回の襲撃は夜に起こった。皆は寝ていて、リンはこれ幸いと一番乗りで駆けだす。


 リスク無くしてリターンは得られない。恐怖を押し殺し、モンスターと人間の生存競争に介入する。乾いた発砲音が耳に響き、リンはモンスターと誰かが相打ちになっているのを確認する。念のために近くに落ちていた手頃な瓦礫を拾い、モンスターの頭を念入りに潰しておく。人間の死体からは拳銃を頂き、すぐに立ち去る。


 行先は決まっていた。エリアだ。


 リンはこのノライラ都市の近くには、コロニケと呼ばれるエリアがあるのを知っている。エリアとは死の危険があるが、それ以上に莫大な利益をもたらす場所であると聞いたことがある。


 ならば証明するのだ、自分の命の価値を。あの時出来なかった事は、今にでも出来るようにするのだ。


 そう決意すると、リンは日の出に向かって駆け出した。


 あの時は恨めしいばかりだった日の出も、今は自分を歓迎するべく光り輝いているかのように、


 ――リンには見えた。





『本当に、いっつもこんなとこに寝てるのか?』


 それはリンがいつも寝床にしている裏路地まで来ると、開口一番にシロはそう言った。


 もっともリンにしか聞こえない声であり、あの後また消えたシロは、もうリンの頭の中だけの存在だ。


 やはり、自分の頭がおかしくなったのだろうか。


 エリアでの体験は想像を絶するものだった。死への恐怖から幻覚を見たり、幻聴を聞いたりしてもおかしくはない。シロという自分の恐怖を和らげる存在を心が勝手に作り出しても、おかしくはない。そう思ったリンだったが、今はそんな事を考えても仕方ないとし、異常を受け入れていた。


「悪かったな、こんなところで。でも仕方ないだろ? 買取所はもう閉まってるだろうし、金がないんだよ金が」

『いつの世も金か。世知辛いなぁリン』

「ああ。金がなきゃ、路上で寝るしかない。……にしてもいいのか? シロは帰らなくて。この都市に家とかないのか?」

『リンおまえ、俺を何だと思ってるんだ? 傍に居ると言っただろ、気遣いは要らないし、それに、俺に帰る家などもうない。今あるとしたら、ここだけだ』


 リンはシロの、俺を何だと思っているんだ、帰る場所はここだ。そんな声を聞いてしまい、不安になってしまった。やはり、そういうことなのかと。だからもう寝ることにした。頭が変になったのは仕方ない。寝て治る問題なのか分からないが、大体は治る筈だと。


「そう、じゃあ俺はもう寝るよ。明日はやる事が山積みだからな、寝不足で動けない、なんてことになりたくない。……おやすみ」

『おやすみ』


 リンはもう自分が使う事は無いだろうと思っていた就寝の挨拶を告げると、すぐに寝てしまった。今日は特に疲れている。明日も早くから活動する為には、今は眠らなければならない。


 危険だと分かっている場所で必要な睡眠を取れる事、異常が迫っているならばすぐに起きる事が出来るように、なるべく浅い睡眠を取る事。それはリンがこのスラム生活で獲得したスキルのひとつだった。


「寝てたらほんとに可愛いなぁ。そういえば、なんで一人称が俺なんだ……? まあ男勝りなだけか。っふふ、つくづく相性がいいな」


 呟きは闇に紛れて、リンにすら届くことはなかった。


 シロは固い路地の地面で建物の壁を背にして眠りに付いているリンの傍に座り、空を眺めながら寄り添った。


「ッは、ああマジかよ」


 どこか自嘲的に笑いながら、空へと伸ばしていた手は行き場を失う。そこで、リンの頭に降ろすしかなかった。





「リン。そろそろ起きないと、いたずらしちゃうぞ? ほら、もうそこまできてる」


 朝、リンが起きないと見ると行動を開始した。まだ寝ているリンの傍に躍り出て小声で語り掛ける。当然、そんな小声で人は起きない。それでも起きないと分かると顔をにやつかせ、両手を頭の上でワキワキと揉んだ。


「これが、魔の手だぁぁあああ!!」


 そして掛け声と共に、ダイブする。


 だが、リンがスラム街の生活で身に着けたスキルは正しく機能した。その結果、シロは顔面から地面へと激突する。


「なにしてんだよ。シロ、俺には意味が分からない」


 理解できない事が続けば流石に参ってしまう。リンは疲れたように言って立ち上がり、昨日エリアから回収した痕跡を確認する。シロは起きても傍にいた。ならバックも存在している筈だと思ったのだ。


(よかった、これが無くなるのは流石にマズかったからな)


 地面に激突してうつ伏せになりながらも、なんら気にした様子を見せないシロはそのまま話をする。


「なに。俺はおまえの師匠だろ? ならばこれは稽古だ。自分の弟子が奇襲にも対応できない。そんな情けない状態では師匠は、師匠などではないッ!! ……んなことよりもだ、リン。俺の恰好について、何か言うことがあるんじゃないか? ほら、感想を、今すぐ、いえ!」


 リンは痕跡の入ったバックを確認する為に、話を無視して背中を向けていた。だが音もなく目の前に現れたシロに首根っこを掴まれ、確かにいつの間にか変わっているシロの服について感想を求められた。


「どうやって、ってか。服?」


 出会った時のスラム街に居ても不思議ではない状態から打って変わり、上等な衣服を身に纏っていた。紐編みの黒いロングブーツは厚底で、それだけで身長が2センチは上がっていそうだった。光沢があり、ツヤツヤとしている。


 まるで用途が分からないが、何か小さい物が挿せそうな、穴の付いたベルトを左ふとももに巻いていた。黒いショートパンツに白いシャツの上には、たっぷりとした厚手の生地で出来た、オーバーサイズの黒い上着を羽織っている。


「えっへへ。どぉ? ちゃんと似合ってる?」


 なんだか変な声を出してポーズを取ったシロ。真っ白い髪をはためかせ、金色の瞳を爛々とさせれば、


 誰がどう見ても、非行少女のそれだった。


 しかし、リンがそんなシロを下から上まで眺めても、普段通りに言うだけだった。


「感想って言われてもな。そんな服どっから持ってきたんだ? カゴにも入ってなかったと思うけど」


 リンは妄想なら服装なんて思いのままか、と考えることで納得した。


「…………はぁ。もういい。とっとと痕跡を売りにいけ、その金で宿を取るんだ」


 シロはため息をつくと、上着のポケットに手を突っ込んで前屈みになる。するとこれからの行動をリンに示した。


「あ、ああ。そのさ、なんて言えばよかったんだ……?」

『俺は、とっとと行けと言ったんだ』


 シロの姿が掻き消え、怒ったような声を聞いたリン。自分は返答を間違えたのだと思った。


(仕方無いじゃないか。俺にはもうあの時から、誰もいなかったんだから……。本当に何て言えばよかったんだろ。俺に分かる訳ないか。大体、シロは俺の頭の中にしかいないんだ。俺が考えられない事は、シロにも分からないって事だよな。でもそれじゃあ、シロが言う意味不明な言葉は一体……。でも…………)


 リンは自身の妄想が生み出した存在が、こんな少女であることに気落ちした。


 自分が本当に求めてやまないのは力などではなく、女の子なのか。その考えを、そんな訳あるかと心の中で叫び、何かの間違いだと気を取り直す。


 少し黙っていたシロは、流石に大人気無かったかなと思った。リンにも見えない頭を振って気を取り直すと、まだ言えていなかった事を言った。


 ちょっとした行き違いがあったものの、これだけは声が重なる。


『リン。おはよう』

「シロ。おはよう」


 また、朝がきたのだ。


 リンはその事実に肩を震わせてしまう。だがすぐに気が付いた。この朝は、いつもとは違っていたことに。だがらリンは下を向くのはやめ、狭い路地から出て空を見上げてみる。


 空は青く澄み渡り、太陽は自分を照らしていた。

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