第84話 衝動
彼が倒れた後、救急車に一緒に乗って病院に行ったのは菫さんだった。
私たちが行くよりは身内の彼女に任せた方が安心だと判断したからだ。
彼の容態の連絡がくるまで私は瑠璃さん、りんさんと近くのカラオケ店に入った。
「菫さんから連絡が来たわ……胃潰瘍だそうよ」
「胃潰瘍……良かった〜」
「良くないわよ瑠璃さん、胃に穴が空いているそうよ、そして恐らくだけれどその胃潰瘍はストレスから来ているそうよ」
ストレスによって胃潰瘍を発症する、聞いた事が無いわけではないが、まさか彼がなるとは思ってもいなかった。もっと深刻な病気も可能性も考えていたが、杞憂で良かった。
「そのストレスはどこから来ていると思う? 瑠璃さん」
「えっ!? な、夏休みの宿題が終わってないとか……?」
「……はぁ。瑠璃さん、そんなわけ無いでしょう? 今日、彼は誰と一緒にいたの?」
「えっ……、りんさん?」
瑠璃さんがりんさんの方を向く。
「えっ? 廉君の病気が私のせいって事?」
「ストレスから来ているらしいからね」
「………」
「真珠ちゃん! ストレスから来てるって言っても、いきなり胃に穴が開くわけじゃ無いでしょ? だからりんさんのせいって言うのは……」
「……私達のせいじゃ無い?」
「私達の?」
「せい?」
「身に覚えがなさすぎるのだけれど、どういう事かしら?」
「そもそも廉君にストレスがかかっているのって私達のせいだと思うんですよ。毎日毎日朝から晩まで廉君と一緒にいて、私はバイトだからたまにしかいれないですけど、貴方達はほとんどの時間を一緒に過ごしていますよね!?」
「当たり前よ、彼の事が好きなんだもの、1分1秒たりとも無駄にしたく無いわ」
「しょ、しょうがないじゃん、隣の部屋だし……好きだから……」
「好きだったら相手のことを考えることも出来ますよね?」
「「………」」
返す言葉が見つからなかった。
けど、そんな事で諦める私では無い。
だって彼を一番愛しているのは私なんだから。
「それじゃあ、彼にストレスがかからないように人を減らせばいいのよね?」
「人を減らすというのではなく、会う回数をへr……」
「私の他に貴方達がいるから彼にストレスがかかるのよ、貴方達が消えれば、その問題も解決するわよね?」
「し、真珠ちゃん? 急にどうしたの?」
「し、真珠さん、どうしたんですか?」
勝手に身体が動く、自分にとって邪魔な存在を排除するために。
そんな衝動に駆られた。
が、すんでのところで、今自分が2人に何をしようとしていたのかに気づいた。
「ご、ごめんなさい、今……私……2人に何を……!?」
居た堪れなくなってしまい、荷物も置いたまま部屋を飛び出した。
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