番外編 バレンタイン

「さて、どうしたものかしら」


2月7日、バレンタインまであと1週間しかない。

しかし、目の前にあるのは、崩れたり、爆発し、欠片しかないチョコの残骸だ。


「このままでは彼にあげる事すら出来ないわ」


「しょうがないわ…この手はあまり使いたくなかったのだけど…」


あるグループに連絡を1つ連絡を入れる。

『問題発生、至急私の家に集合』




***




「急に呼んでどうしたの? 問題発生って」


「私、来週、廉君にあげる用のチョコ作ってた所なのに…」


「私だってタッキーのためにチョコ選んでたんですよ」


「私はみんな安易にチョコだと予想して、マカロンを廉のために探してた」


30分経った頃には私の家に全員が揃っていた。


「というか、真珠ちゃんの家って初めて来たけど、やっぱり広いね」


「そう? かしら、私にとっては普通だと思うのだけれど」


「いやいや、広いよ! 私の家の5倍くらいはあるよ!」


「瑠璃さん、私の家の話はいいから、これを見てちょうだい」


欠片しかないチョコの欠片を見せる。


「このチョコを見てどう思う?」


「それ、まずチョコなの?」


「残りカスにしか見えない」


「漢方薬じゃない? それにしか見えないんだけど」


「もしかして、そのゴミみたいな物体をあげるつもりだったんですか?」


酷評だった。日頃の鬱憤を解放しているのか、いつもよりも当たりが強く、口が悪い気がする。


「どうやら、私には料理の才能がないらしいのよ」


「「「「今頃気づいたの?」」」」


「そうね…今更気づいたわ、というか、瑠璃さんも大概よ」


「いや! 私は違うし! 私だって前よりは料理上手になってるし!」


必死に瑠璃さんは否定するが、琥珀さんやりんさん、リシアの目は私を見ていた時と同じくらい光がなかった。


「それで? 真珠さんはどうしたいんですか?」


「……もう、これしかないと思ってるわ」


「これって…?」


「………チョコを全身に塗りたくって、『バレンタインのチョコは私よ』って」


「「「「…………」」」」


ポカンと口を開けてみんな固まっていた。


「……真珠ちゃん、それ本気で言ってる?」


「もちろんよ、チョコを体に塗るだけだもの、作るよりは簡単よ」


「それは…流石に…」


「何よ、りんさん、何かダメかしら?」


「ダメ…ではないんだけど、廉君がそのチョコを舐めると思う?」


「………舐めさせるのよ、抵抗させずにね」


「それはやめといた方が良いんじゃないかな? やり過ぎると廉も怒るだろうし」


「あぁ! もう! じゃあ、どうすれば良いのよ〜!」


結局、私は市販の既製品のチョコを買って渡す事になった。

それが一番安全で安心して彼が食べてくれるらしい。




***




「あれ? 今日はみんなして、どうしたの?」


2月14日、バイトが終わった僕は家に帰ると、すでに部屋の中には5人全員が揃っていた。


「もしかして、今日が何の日かは忘れてないでしょうね? あなた」


「あー、流石にね、コンビニでもそのために特設コーナーも作ったぐらいだし」


「それじゃあ…」


各々、カバンから袋を取り出して、僕に向けて差し出してくる。


「「「「「ハッピーバレンタイン!」」」」」

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