第78話 国歌

『夏休み、空いてる日があったら教えて欲しい』


部活にも入っていない僕の夏休みの予定といえば、バイトくらいしか無いので、『バイトがある日以外は空いています』と返信をした。

すると、すぐに返事が返ってきて、


『明日、付き合ってくれるか?』


と一言。




***




「ここが…カラオケ…」


「もしかして、廉君って、カラオケ来たことない?」


「そうですね…初めてです」


「そ、そうか…」


りん先輩に連れてこられたのはカラオケという場所だった。

名前自体は聞いたことがあったが、一度も来た事は無かった。


「りん先輩、カラオケって歌を歌う場所ですよね? どうして僕を?」


「そ、それは…!」


りん先輩の話を聞いて、簡単にまとめると、三日後に友達とカラオケに行くことになっていて、そこで恥ずかしい思いをしないように、歌の練習がしたかったそうだ。あと単純に一緒にカラオケに行きたいと。


「それで僕を連れてきたのは良いんですけど、流行りの曲とか全然分かんないんですけど、大丈夫ですかね?」


「大丈夫! 流行りの曲じゃなくても、自分が知ってる曲歌ってくれれば良いから!」


「そう…ですか…」


僕が歌える曲は…

僕が一番知ってる曲をカラオケの機械で予約をする。


「この曲って…」


「え? 国歌ですけど、何かおかしかったですか…?」


「い、いや、最初に国歌歌うのは珍しいなぁ、って思って」


僕は何かおかしかなことをしてしまったのではないだろうか、国歌を歌い終わると、すぐさまトイレに駆け込み、ある人に電話をかける。


『ど、どうしましたか!? お兄ちゃん!』


「いや、菫に聞きたいことがあってさ…」


『何でしょうか!? お兄ちゃんが知りたいのであれば、私のスリーサイズでも、なんでも教えますよ』


「い、いや、そういうのじゃなくて」


『そうですか…』


「カラオケに今いるんだけど、何を歌えば良いのか全然分かんなくて、どんな曲を歌えば良いか教えてくれない?」


『カラオケですか…、お兄ちゃんはあまり音楽は聞きませんもんね。どんな曲を歌えば良いのか分からないのも無理はないです。そうですね…お兄ちゃんが知ってる曲で…、あ、お兄ちゃんは何人でカラオケにいるんですか?』


「2人…」


『ふ、ふふ、2人ですか…? もしやもう1人は…女の人ですか…?』


「うん…そうだけど」


『カラオケ…小さくて狭い部屋にお兄ちゃんが女の人と2人きり…』


「う、うん、そうだけど…」


『危険過ぎます! 今からそこに行くので、どこのカラオケか教えてください!』


「えっ!? い、いや、いいよ、別に大丈夫だから!」


『………』


「切れてるし…」


どこのカラオケにいるかも結局聞かないまま、菫は通話を切ってしまったが、一体どうするのだろうか? まさか真珠みたいにスマホのGPSからどこにいるかを特定なんて…


「いや、ないない、そんな事あるわけない…」


自分で考えてどんどん不安になった。



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