第70話 「結局、あの話って…」

「皆さんに聞きたいことがあるんですが、少しお時間いいですか?」


午前シフトと午後シフトの交代の時間、琥珀さんが私たちにそんな事を聞いてきた。


「えぇ、何かしら? 話を聞くのはいいけれど、私のシフトまであまり時間がないから、なるべく早くしてもらえるかしら?」


「うん、それはもちろん」


テーブルを囲むように5人が座った。


「そういえば廉くんは?」


椅子に座った瑠璃さんが聞いてきた。


「彼はもう海の家に行ったわよ。だから、早く行きたいのだけれど…」


「うん、なるべく早く終わらせたいから、すぐに本題に入るね」


「えぇ、お願いするわ。それで話って一体何なの?」


「それは…手を組むって話は一体どこに行ったんですか?」


「「「「!!!!」」」」


「えぇと…それはどういう意味かしら?」


「そのままの意味です。最初聞いた話だとそう聞いたはずなのですが…」


「えっと…」


「それは…」


瑠璃さんも同じ事を思っているようだ。

私も正直言って薄々気づいていた。

最初に言った事からどんどん離れていることに。


「今の私たちは皆で手を組むというよりは、一人一人が個々で廉くんに振り向いてもらおうとしているようにしか思えないんです」


「「「「…………」」」」


図星だった。

実際、皆で手を組むというよりは彼に振り向いてもらうために個々で行動していたのは事実だ。だけど、今更その約束が何だというのだ。


「そうね…そんなのもあったわね。でも、今更皆で仲良く手を組むなんて無理に決まってるわ。手を組んで、彼が振り向いてくれたとしても、彼の目には私以外のあなた達がうつっててしまうじゃない! 私は嫌よ。彼には私しか見てほしくない。私だけを見ていて欲しい。そう思っているから、私はあなた達と手を組む必要なんてない。1人で十分よ」


「ちょっと真珠ちゃん!? どこ行くの!?」


「ま、待ってください!」


私は皆の静止を聞くことなく、ログハウスを後にした。

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