第57話 海の家でのバイト⑥

「そろそろ、人も少なくなってきたし、みんな、今日は初日だし、早めに上がっていいよ!」


「分かりました」


午後3時過ぎ、甘楽さんが今日の仕事は終わりと言ったので、6人で一度ログハウスに帰ることになった。




***




「ねぇ、どうする? 少しだけだけど、海行っちゃう?」


「私も、海、入りたいです」


ログハウスに帰ってきて、開口一番に瑠璃さんがそう言うと、リシアさんもそれに賛同した。


「……リシアさんって、もしかして、海に入ったことないの?」


琥珀さんがリシアさんに聞く。


「皆さん、ふつうはそう思いますよね。ロシアって寒くて、海も凍っちゃいますからね」


「そう、だから、入ったことないのかなって思って」


「もちろん、ロシアでは海が凍りますが、それは冬の時だけですし、川や湖は基本的にどこにでもあるので、入ったことないわけではないんですよ」


「じゃあ、ロシアで夏に海に入ったことがあるの?」


「はい、そうです。日本では海に入ったことがなかったのでいい機会だと思いまして」


「ちょっといいかしら?」


話の途中で真珠が会話に入ってきた。


「海に行くのは別に構わないのだけれど、それよりも優先すべきことがあるのよ」


「ん? 何かあったか?」


思い当たることがないのか、りん先輩が不思議そうに真珠に聞く。


「夕飯よ、ゆ、う、は、ん」


「そっか! 晩御飯も私たちが自分で作らなきゃいけないんだ!」


「そうなのよ、瑠璃さん。甘楽さんにさっき渡された食費が、3万円。これで1週間、すべての食事を賄わないといけないのよ」


「とりあえず、今日の晩御飯と6日間、けど、最終日の夜はいらないから、合計6日間分、18食か」


「30000÷18=1.666…1食1700円ぐらいしか使えないのよ」


「6人で1700円って…1人300円ぐらいしか使えないの!?」


1食に少しのお金しか使うことができないことが分かり、瑠璃さんが焦り始める。


「別に心配する必要ないよ、瑠璃さん、300円も使えるんでしょ?」


「それって本当? りんさん」


「もちろん、300円って少なく感じるけど、工夫すれば300円でも美味しくてお腹が膨らむもの作れるよ。それで…一緒に買い出しに行ってくれる人、誰かいない?」


「私も行きます」


リシアさんが手を挙げた。


「じゃあ、僕も」


結局、この6人の中では料理のできる3人になるのかと思っていたのだが…


「じゃあ、私も行く!」


「る、瑠璃さん!? どうして急に!?」


「じゃあ、私も」


「琥珀さんも!? どうしてですか!?」


「私も行くわ」


「真珠まで! そんなに人数はいらないよ! どうして!?」


「「だって、廉くんが行くから」」


「だって、あなたが行くんだもの」

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