第55話 海の家でのバイト④
「いらっしゃいませー、あちらの席にどうぞー」
午前10時、海にはすでにたくさんの人がいる。
そして、あと2時間もすれば昼食をとりに、海の家を利用する人も増えるだろう。
が、しかし、この海の家はすでにほぼ満席状態だ。
こんなに混むのは早いのかと甘楽さんに話を聞くと、
「おっかしいね~、普段ならお昼ぐらいにちょうど満席になるくらいなのに、いつもよりも店が混むのが2時間も早いよ。まぁ、理由は分かるんだけどね」
「まぁ、きっと…」
甘楽さんとホールを見る。
「こちらが焼きそばになりまーす!」
瑠璃さんが完成した料理をお客さんに渡している。
「いらっしゃいませー、あちらの席にどうぞー」
りん先輩はコンビニでのバイトの経験から、すごく接客が上手い。
「はーい! お待ちの人はこちらに並んでくださーい!」
琥珀さんはいつの間にかできていた、長蛇の列を管理している。
「Sorry, we're fully booked right now, so please wait in line.《申し訳ございませんが、現在満席となっておりますので、お並びになってお待ちください。》」
リシアさんは外国人の対応をしてくれている。
そして、今、この海の家にいる人の9割が男の人なのだ。
この9割の男の人の目当てが彼女たちということがわかる。
「こんなに人が来てくれるのは、嬉しいんだけどさ…廉くん、真珠ちゃんを助けてあげてくれない?」
真珠の方を見ると、大変なことが起こっていた。
「さっきから言いましたよね? 注文が決まってから、私たちを呼んでくださいと。なのに、あなた方は、注文が決まっていないのにも関わらず、何度も私たちを呼ぶ、はっきり言って迷惑なのよ」
先ほどから真珠が対応している、4人組の男性のグループなのだが、注文が決まっていないのにもかかわらず、何度も真珠を呼んでいるようだ。真珠が何度も注意しているが、全く聞く耳を持たないでいる。
真珠も呼ばれるたびにイライラしている。
またそのグループが真珠を呼んだ。
「はい、ご注文をどうぞ」
いつもよりも簡潔に、ものを言う真珠は。
すでにこの時点で相当イライラしていることがわかる。
「ごめんね、何度も。ところでさ、この後、休み時間あるでしょ? そのときさ、この海の家の女の子みんな呼んでさ、一緒に海で遊ばない?」
「ご注文をどうぞ。そういうお誘いはすべて断らせてもらっているんです」
「そう悲しいこと言わないでよ。君すごく可愛いからさ、一目惚れしちゃって」
「そうですか、ご注文をどうぞ」
そう返された男の人が、貧乏ゆすりをし始め、イライラしてきたことがわかる。
「あっ! もしかして、好きな人でもいるの? だから、誘いを断るんだね? 誰かは知らないけど、きっと、僕の方が君を満足させられると思うけど、僕じゃダメかな?」
「………」
嫌な予感がする。そして、どこかでこんな光景を見たことがあるような…気のせいか? 既視感があった。
すると、真珠が厨房にいた僕を連れ出し、
そのグループが座っている、テーブルの前に連れてこられた。
「彼が私の夫です。これでいいですか?」
「えっ?」
彼氏とかならまだしも、夫?
「「「「えっ!?」」」」
4人組の男たちが一斉に驚く。
「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」」
それ以上に、瑠璃さん、りん先輩、琥珀さん、リシアさんが驚く。
甘楽さんを見ると、
「えっ!? そうだったの!?」
真珠、この状況、どうすればいいの?
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