第36話 頼りになる兄がいるとブラコンになりやすいらしい

「ひ、久しぶり」


「こんなに大きくなって〜もう〜」


「か、母さん、やめてくれよ。まだ2〜3ヶ月しか経ってないんだから大きくなったも何もないだろ」


まだ家を出て数ヶ月も経ってないうちに帰ってきてしまった。迎えてくれた母さんが僕の頭を撫でに撫でるが、その手を振り払う。


「もう、照れちゃって、可愛いんだから」


「本当にやめてくれよ! 人前なんだから!」


「そうだったわね、あなたがリシアさん?」


「………はい、荻リシアです。今日からよろしくお願いします」


「あら〜こんな可愛い子が家に泊まるなんて最高じゃない! だけど…廉の家じゃダメだったの?」


「えっ?」


「だって、今、廉は自分の家があるんだから、泊めてあげればよかったじゃない」


「い、いや〜だけど長い期間となると…」


「でも泊めてあげればよかった…あぁ〜そういうことね。で、いつ私たちに会わせてくれるの?」


「は? 何言ってるの?」


「これ、できたんでしょ!」


母さんが手を出して、小指だけを立てる。

古いよ…母さん…


「もう、ずっと待ってたんだから、真珠ちゃんと結婚はしないって突然言った時は人生で2番目に驚いたわね」


1番目は…なんてことは聞かない。聞いたら父さんとの馴れ初めからプロポーズまでを1から喋られるからだ。


「いいわよ、私たちは。廉が決めた人なら誰でも歓迎するからね」


「まだそういう人はいないから!」


「あら、じゃあ何でリシアちゃんを泊めてあげないの?」


「それは…えっと…」


僕が返答に困っているとリシアさんが口を開く。


「滝山くんは1人の力で生活したいとおっしゃっていました。それが私を含め2人になってしまうと、その負担が大きくなってしまいます。なので話し合った結果、図々しいですが滝山くんの実家に泊めさせてもらうことになりました」


「そうなのね。…でもね、廉。結婚したら自分とその人、そして廉たちの子供、2人以上の負担は普通にかかってくるの。それは頭にいれておきなさい」


「分かったよ…」


「じゃあ!」


母さんがパチンと手を叩く。


「リシアちゃんの部屋はこっちね〜」


てっきり、空いている部屋をリシアさんに貸すものだと思っていたのだが…


「ここって…すみれの部屋じゃないか?」


「あら、言ってなかったかしら、そうよ、ここは元、菫の部屋よ」


「じゃあ菫の部屋はどうするの?」


「お兄ちゃんの部屋を使うので大丈夫です」


答えたのは母さんではなく、僕の妹の滝山菫だった。

菫は僕の一個下で中学3年生、14歳だ。中学生と言えば、思春期真っ只中、僕が家を出る前は父さんと洗濯物を一緒にしないでくれと言われていて、父さんはショックを受けていた。そんな思春期真っ只中の妹が僕の部屋を使うことに抵抗は覚えないのだろうか?


「菫…お前はそれで納得してるのか?」


「はい、お兄ちゃんの部屋が使えるなら」


「母さん、別に菫が部屋を使うのはいいんだけどさ、僕の荷物とか…ベットは?」


「移動するのもめんどくさいから、そのままよ。菫もそれでいいって言ってたし」


「はい、大丈夫です。お兄ちゃんの匂いがついているので」


「そう…か…臭いと思うから消臭剤かけとけよ」


前から菫がブラコンなのは知っていたので、これは平常運転なのだが、できれば先に言っておいて欲しかった。早めに来て片付けとかしたかった…


「じゃあ、母さんと菫、リシアさんをよろしく」


「任せなさい! 元いる人数に戻っただけだから楽勝よ」


「はい、お兄ちゃんの部屋には近づけさせません」


「………まぁ、あと父さんにもよろしくって言っておいて。じゃあ、僕は家に戻るよ」


「じゃあね〜」


「さようなら、お兄ちゃん」


「До свидания《さようなら》」


そうして家のドアを閉める。最後に家からこんな声が聞こえてきた。


「今のってやっぱり、ロシア語? 廉が昔、急にロシア語を勉強し始めたのは…あなたのためだったのね」


「えっ!? も、ももも、もう少し…詳しく…」


「いいわよ〜あれはね〜」


リシアさんに僕の黒歴史から何まで全部喋っていそうなのが、母さんの一番怖いところだ。


「後でLINEで釘刺しておかないと…」





あともう少しで課題が終わります…

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