第34話 後出しだから絶対に負けない

「それは…本当なの? 廉くん」


「嘘…でしょ…」


「はい、口移しで食べさせました」


一難去ってまた一難とはまさにこの事、せっかく落ち着いたと思ったら、またリシアさんが爆弾を投下した。

そうだ、僕…リシアさんとキス…したんだよな…ボルシチの味だったなぁ…


「リシアさん! 何でそういう時に嘘つかないの!?」


「廉くんがそう言うことは…」


「本当に…」


「みんな落ち着いて! ねぇ、真珠、何で黙ってるの!? 怖いから喋って!」


真珠はリシアさんが口移しをしたと聞いた時から一言も喋っていない。

それが怖さを倍増させる。


「………」


黙ったまま真珠がふらりと立つ。


「そう………死ね」


さっき置いたばかりの包丁をまた手に取り、リシアさんの顔の横に刺す。

壁が…これ…絶対怒られるよね…ってそんな場合じゃない!

真珠を止めないと!


「ちょっと、真珠、落ち着いて! 2人も真珠を抑えて!」


「「………」」


「ねぇ、何で動いてくれないの?」


「廉くんの初キスを奪ったやつを…」


「守る義理はない」


ダメだ! この2人は動かない!

僕が止めるしかないのか…


「真珠、壁が!」


「壁なんていくらでも替えがきくわ」


「けど、リシアさんの命はひとつしかないよ!」


「だからよ! あなたのファーストキスだってひとつしかない! それをこの女がとった! ならこの女もひとつしかないものを私が奪うしかない!」


「本当に真珠! 落ち着いて! 何でも言うこと聞くから!」


真珠がその言葉を聞いてピタッと動きが止まる。


「今…今…何でもするって言った…?」


こうでもしないと止まらないと思ったが、これ…ヤりたいとか言われるんじゃないか…?

言っておいて何だが…流石にそれは…


「いや…ちょっ…」


「じゃあ、キスしたい」


「は? 何で!?」


ヤりたいとか言われなくてひとまず安心したが、だからと言ってキスをゆr…


「ん!」


「ん………」


突然真珠に顔を抑えられたと思ったら、キス…キスをされた。


「んん!」


突然のことで抵抗できずに少しボーっとしていたが、これ…舌入ってないか!?

これって…ディープキス!?

そのまま抵抗できずに流されるままキスをさせられた。

そして数分後、僕はキスから解放された。


「し、真珠…」


「ふふ、上書きしてやったわ。ファーストキスは取られてしまったけど、上書きしてしまえばいいのよ! 次こそは私があなたの初めてをもらうわ!」


「………ま、満足したか?」


「ええ、今日はもう十分だわ。十分すぎるわ」


「そう、満足してくれたか…」


ディープキスをしてしまったが、ヤりたいと言われなくて本当に良かった。

ファーストキスはボルシチの味だったが、口移しじゃなくて普通に食べたかった。

ボルシチってまだ残ってるのかな? なんて思っていたら…


「滝山くん、大変厚かましくて申し訳ないんですけど…」


「ど、どうしましたか…」


何かイヤな予感がし、身構える。


「今日から…泊めてくれませんか?」


「「「「は?」」」」


やったね。今日から本場のボルシチ食べ放題だよ。


「実は…ずっとホテル暮らしで…」


リシアさん…後出しジャンケンやめてくれないかなぁ…

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