第21話 荻リシア

彼女、おぎリシアと初めて会ったのはいつだったのだろうか…

………そうだ、僕が転校した時だから、小学5年生の時だ。

父さんの会社の本拠を移すことになって、小学生5年生の時に僕は転校した。


「は〜い。みんな、注目〜、今日から一緒にこのクラスで過ごす…ほら、自己紹介して」


「滝山廉です。これからよろしくお願いします」


「よろしく〜」


「よろしくね」


最初のクラスの印象は全体的に仲が良く、大きな衝突がない、良いクラスだと思った。

しかし、それは僕の間違いだった。


「じゃあ、滝山くんは窓側の列の1番後ろの席ね」


「はい、分かりました」


説明された席の隣にはこのクラスに入ってから、ずっと気になっていた子の隣だった。

綺麗な茶色の髪の毛、僕とは違う水色の瞳、気になるには十分な理由を持っていた。


「今日から隣、よろしくね」


僕は隣の席の子に喋りかけてみる。


「………」


彼女から反応は返ってこない。

いきなり馴れ馴れしくしすぎたかな…と反省していると。


「……………リシア」


「えっ?」


「………荻、リシア…」


「リシア…いい名前だね!」


「………あ、ありがとう」


「リシアさんって、ハーフ?」


「………日本とロシアのハーフ」


「そうなんだ! ハーフって何だか、かっこいいよね!」


「………あ、ありがとう」


僕は彼女のことをもっと知りたいと思った。恋愛絡みではなく、彼女の腕に気になることがあった。


「リシアさん、そのアザ、どうしたの?」


そう、荻リシアの腕にはたくさんのアザがあった。よく見てみると腕だけでなく、足などにもアザがあることを見つけた。


「……………」


「リシアさん?」


「………アザは…転んだだけ」


彼女の何か隠しているような発言に僕は違和感を覚えていた。

そしてその違和感の正体はすぐにわかった。

僕は誰もいなくなった放課後の教室で彼女に質問をした。


「リシアさん…もしかして…いじめられてる?」


「っ!?」


その反応…当たってるな…

そこでいじめられている疑いは確信に変わった。


「誰にいじめられてる?」


「……………」


「リシアさん、何か言ってよ…」


「何で…」


「ん?」


「何で滝山くんにそんなこと言わないといけないの!?」


「リシアさん…」


「滝山くんは私を助けてくれるの!?」


「うん、僕はリシアさんを助けたいと思ってるよ」


「嘘だ!嘘だ!嘘だ! 信じられない! 先生にも何度も言った! でも先生は私を助けてくれるって言ったのに未だにアイツらに何も言わない! 助けてあげるだなんて何回も聞いた! 滝山くんだってきっと先生や、アイツらと同じなんだ!」


「リシアさん…」


これが彼女の本音だったのだろう、何度助けを求めても、誰も助けてくれない。それが当たり前に思えてしまって、彼女は他の人を信じることができないのだろう。

そんな彼女を僕は絶対に助けたいと思った。


「僕は君を絶対に助ける、これだけは信じてくれ」


「………本当に? 本当に信じていいの?」


「あぁ、信じてくれ」


その後、彼女から聞いたイジメの内容を聞いて、信じられないほどの怒りが込み上げてきた。イジメの原因は些細なことだったらしい。最初は物を隠されたり、無くなったりなどまだ可愛いと思える物だったのだが、だんだんとエスカレートし、好きでもない人に告白させられたり、下駄箱の中に虫を入れられたりと想像を絶するいじめを受けていることがわかった。


「………でも、滝山くん。私なんか助けなくていいよ」


「どうして?」


「もし、私なんかを助けたら、次は滝山くんがいじめられちゃう」


「リシアさん、私なんかなんて言わないでください。この世にいじめられていい人なんて1人もいないんです」


「滝山くん…ありがとう…」


ボロボロ泣き出すリシアさんを見て今まで助けてくれると言っても口だけで、誰からも助けてもらえず、本当に辛かったんだろうなと思った。



***



僕はその次の日に、リシアさんから聞いた、彼女をイジメている人たちを放課後の教室に集めた。


「滝山、話って何だよ」


「リシアさんをいじめるのをやめてくれないかな」


「はぁ? 俺たちが、リシアを? そんなわけないじゃんw」


「嘘をつかないでくれるかな。リシアさんから全部聞いたんだ」


「あ〜あ、気づいちゃったのか。せっかく転校生だから優しくしてあげようと思ったのに」


「優しくなんてしてもらわなくて構わない。リシアさんいじめるのをやめろ」


「ヤダね。せっかく面白いおもちゃを見つけたんだ。今更やめる気はないね」


本当に小学5年生かと思うほど今の発言はイカれていた。


「最後の忠告だ。リシアをいじめるのをやめろ」


「だから! やめる気はないって言ってるだろ! 痛い目見ないとわかんないのか!? お前ら、少し痛めつけてやれ」


そいつらが僕に向かってくる。


「結局、こうなっちゃうのか…」


こうなったら仕方がない、やられる前にやるしかない。

その後のことは詳しく覚えてない。

ただそのあと、教室に入ってきた教頭先生に僕も含め、アイツらと一緒にこっぴどく叱られた。しかし、そこで僕はリシアのイジメについて先生に話し、彼らは親を呼び出され、さらに絞られたらしい。ちなみに僕も親を呼び出された。めちゃくちゃ怒られた。




***



「じゃあね。リシアさん」


「うん、滝山くん」


リシアさんは少し前から両親にイジメのことについて話しており、転校することが決まっていたらしい。どれだけ助けを求めても対応してくれなかった、先生がいるような学校に我が子は預けられないだろう。

 

「………滝山くん」


「何?」


「滝山くんは嘘をつかなかった。私を助けてくれた。本当にありがとう」


人に心から感謝されるとここまで嬉しい物なのかと思っていると…


「Я буду продолжать думать о тебе на всю жизнь」


「え? 何て言った?」


「教えない、これが私の想い」


その言葉を残して彼女は転校した。


「ロシア語、勉強しとけばよかった…」



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